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内容説明
相模原の障碍者施設殺傷事件、安楽死論争、パンデミック・トリアージ――近年、様々な場面で「生きるに値しない命」という言葉を耳にするようになった。しかし、「役に立つ/立たない」ということだけで、命を選別してよいのだろうか。
一〇〇年前のドイツで出版され、ナチスT4作戦の理論的根拠になったといわれる刑法学者カール・ビンディングと精神医学者アルフレート・ホッヘによる『「生きるに値しない命」を終わらせる行為の解禁』の全訳に解説と批判的考察を加え、超高齢社会の「生」と「死」を考える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケディーボーイ
19
原本内では個人の死ぬ権利の擁護から、家族や介護者、公共への負担の話に移り変わる事が多かった。個の権利を守るためといいながら、いつのまにかそれが公に呑み込まれている。当時の独の逼迫した経済状況がそれを進めたという指摘は興味深い。 安楽死・尊厳死は難しい問題だが、同調圧力の強い日本でそれを認める法案が通ったら、望んでなくてもそれを選ばざるを得ない人がでそうで恐い。 〜さんは高齢で身体も動かなくなってきたから、尊厳死を選んだそうだという話を聞いたら(言われたらなおさら)自分もそうした方がいいのかと思いそう。2020/12/14
ネムル
16
中村隆之『野蛮の言説』で紹介されていた本が新版として復刊された。ナチスのT4作戦の理論的根拠となった著作と、訳者二人による批判的考察からなる。まずビンディングとホッヘによる原典を読んでみれば、精神障害への言葉選びが特に強くてげんなりする(内容は独断と臆見に満ちたものでしかないにしても)。また安楽死肯定理論の根拠付けに優生思想よりも、第一次大戦の敗戦後の経済が強くおかれているのが興味深い。と同時に、いまの日本の問題もある程度は経済で落ち着ける、と考えてしまうのが痛し痒し。2020/10/09
古川
11
1920年に発表された論文「生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁」の全訳と、その批判的考察の二部構成になっている。論文はナチスの障碍者安楽死政策の参考にされたとされるが、論文自体には人種差別的要素はなく、障碍者を生かすことの経済的損失ばかりを問題にしている。これには第一次大戦敗戦直後のドイツの荒廃への危機感が強く影響しているようである。考察では橋田壽賀子の安楽死要求などとも絡めて「能力差別」批判を展開するが、「どんな老人や障碍者にも役割がある」という主張はどこか白々しさが漂う。ただ資料としては面白い。2021/05/06
perLod(ピリオド)🇷🇺🇨🇳🇮🇷🇵🇸🇾🇪🇱🇧🇨🇺
9
さらに重苦しく気が滅入る本が続く。しかし成田悠輔の発言(https://www.nytimes.com/2023/02/12/world/asia/japan-elderly-mass-suicide.html )を受けての読書なのでやむを得ず。あるいはやまゆり園事件についていい加減向き合う時と思った。と言うことで100ページ程度の小著でもあるので人道主義者やヒューマニストを自負する人は本書を読んで論破しよう。 原著は1920年、邦訳は2001年、この新版は2020年。→2023/02/14
tharaud
8
「ナチス安楽死思想の原典」の邦訳と訳者の解説が収載されている。「安楽死」政策が、ドイツ民族の種としての質を高める、という民族主義的な理由というよりも、経済的観点が最優先であったことを知る。この問題の書の出版は非常に意義があるが、この原典につける解説として、障害者の抹殺ではなく高齢者の安楽死と老成について論じるのは少し無理がありはしないか。2023/03/05