内容説明
母のレシピは、幸福の“おまじない”。
姑とのトラブルから婚家を飛び出した高坂美月は、自活するため、学生時代の先輩・北條を頼って学習塾で働き始めた。ある日、家庭教師として派遣された先で出会ったのは、中学受験生の倉橋理穂と弟の悠太。絵本作家だという母親は、海外留学中で不在にしているらしい。母親のレシピイラストが飾られた家は、一見、幸福そのものだ。だが、理穂は美月に壁を作り、心を開いてくれない。
美月は北條の力を借りながら、理穂に少しずつ歩み寄っていく。ようやくその距離が縮まったとき、理穂と悠太から、一緒に夕食を食べようと誘いを受けた。だが、その言葉に美月は臆してしまう。料理研究家の姑は、美月に“きちんとした”料理を強いた。そのあまりの強硬さに、美月の心は怯え、萎縮し、閉じこもってしまった。そして、包丁を持つことができなくなってしまったのだ――。
母親不在の食卓を囲むことになった美月、理穂と悠太。それぞれ、どうしても言えない“秘密”を抱えた三人は、絵本に描かれた幸せになるための“おまじない”を探してゆく。
「第1回日本おいしい小説大賞」隠し玉。良い嫁とは、良い母とはなんだろう……。号泣必至、悩み多き女性たちに送る救済の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふじさん
94
姑との折り合いが悪く婚家を飛ぶ出した高坂美月は、勤める塾の家庭教師先で中学受験生の里穂と弟の悠太に出会う。初めは反抗的で頑なだった里穂、家庭教師を続けるうちに少しずつ美月に心を開くようになる。誰にも言えない辛さを抱えた美月、里穂、悠太、一緒に姉弟の母親のレシピで料理を作ることで幸せとは何かを自問することになる。里穂と悠太との関りを深めることで美月の心の痛手は癒され自信を取り戻し自立の道を歩むことになる。登場人物の一人一人の描写がしっかりしており、この作家の次の作品も読んでみたいと思った。 2021/08/30
がらくたどん
85
『恩送り』がとても良かったので。第1回日本おいしい小説大賞応募作(惜しくも賞外)を加筆修正したデビュー作だそうです。婚家の嫁イビリに心折れて出奔し家庭教師で暮らす女性と家庭教師先の小学生姉弟との交流の物語。キラキラな結婚をしたはずなのに姑の暴力的な料理指導で包丁すら持てなくなった「いい人」キャラの主人公は「幸せそうな家」で海外赴任中の母に代わり料理をこなす常に不機嫌そうな姉娘に対し、次第に「いい人」の鎧を脱いで本気で寄り添おうとし始める。「幸せそうな家」の抱える悲しみをスープの湯気が優しく包む善き物語。2023/04/27
真理そら
66
理想的な相手と結婚したと思えた美月だったが姑だけでなく憧れていたはずの夫にも耐えられず婚家を飛び出して塾教師のアルバイトを始めた。幸福を絵にかいたような家庭教師先の絵本作家の母親が長期不在なのを怪訝に思いつつ教え子・理穂と接してるうちに思いがけない真実が…。美月は自身の結婚について銀のスプーンへの憧れを反省しているが、婚家の人々も銀のスプーンを咥えて生まれてきたように見えないのが気になった。婚家の人々のスプーンもやはり銀メッキだったのではと思いつつ読了。2024/07/29
野のこ
61
初読み作家さん。封印してた悠太くんの辛すぎる記憶、理穂の弟を守りたい気持ちと受け入れなくてはいけない辛い事実。包丁を握ることが怖くなってしまった美月。そんな3人の作る、月のスープにジーンとなった。ベルギーブリュッセルベルウッドの森は検索したらすごく幻想的な美しさで行ってみてみたくなった。「お父さんとお母さんが死んでも、ひとりぼっちじゃないと思える人と結婚しなさい」と言う親の言葉が印象的でした。2021/01/04
坂城 弥生
47
姑の嫌がらせが原因で婚家を飛び出した美月と、母親が長期間海外にいって不在の理穂と悠太。それぞれの傷を抱えた3人が月のスープを作る。2023/06/12