講談社文芸文庫<br> 笛吹川

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講談社文芸文庫
笛吹川

  • ISBN:9784062901222

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内容説明

生まれては殺される、その無慈悲な反復。
甲州武田家の盛衰と、農民一家の酸鼻な運命。

信玄の誕生から勝頼の死まで、武田家の盛衰とともに生きた、笛吹川沿いの農民一家六代にわたる物語。生まれては殺される、その無慈悲な反復を、説話と土俗的語りで鮮烈なイメージに昇華した文学史上の問題作。平野謙との<「笛吹川」論争>で、花田清輝をして「近代芸術を止揚する方法」と言わしめ、また後年、開高健をして「私のなかにある古い日本の血に点火しながらこの作品は現代そのもの」とも言わしめる。

町田康
一般の調節された言葉は、一族の多くの者がそのために殺害されたのにもかかわらず、それを、先祖代々お屋形様のおかげになって、と言い換えることができる。しかし、この小説の言葉は、そう言い換えてしまう人間の哀しみを描きつつ、それすらも無言の側に押し流してしまう。そして、その圧倒的で、どうしようもない事態は、始まりと終わりを持たず循環する。――<「解説」より>

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

NAO

69
作者は、農民たちのことなど人とも思っていない御屋形様武田信玄と川に翻弄される笛吹川周辺の農民たちの姿を、淡々と描く。カメラアイのように、ただ事実を映していく。たくさんの人が、次々に死んでいく。かなり凄惨な死に方をする。それでも、それがとんでもなく生々しいものとならないのは、こういった描かれ方によるものだろう。このような描写法は、作者の、現実の世界に生起するさまざまな現象は永遠に繰り返される流転であるとする考え方に起因するのではないだろうか。2021/08/24

夜間飛行

46
9年後に発表されたマルケスの「百年の孤独」と比べると面白い。この小説は、おじいが信玄の胞衣を血で汚して斬られた所から続く恨み節なのだが、見方を変えれば、土と闇の中で連綿と続く生の賛歌でもある。庶民と貴種の間でくり返される血の交錯を、アラベスク模様のように淡々と無表情に描く文体は、現代の読者を突き放すようでいながら、どこかで大きく包み込んでいる。つまり、笛吹の流れに沿った一族六代にわたる生の営みは、古代の叙情歌にも似た大らかな調べを奏でつつ、この世に生きることの残酷さを、心が震えるほど美しく讃えているのだ。2013/10/16

James Hayashi

42
読みにくい作品。甲斐の武田家に使える農民一家6代にわたる物語り。時代劇でなく、史実も一部入っているかもしれないが創作であろう。大河小説であるが250ページに凝縮されている。お屋形様に仕える身で生命も預けている農民。決死の戦いに敗れれば、お屋形様と供に滅び行く運命。映画にもなっているが(暗い意味での)グレーな作品である。生まれては死んでいく農民は大地を這う笛吹川の如く。手応えのある作品。2018/08/28

金吾

41
淡々と書かれていますが、迫力があります。領主とは領民にとりどのような存在なのだろうかと考えました。他の作品も読んでみたいです。2024/01/08

まると

27
戦国時代の甲斐の国を舞台とした小説だが、為政者はほとんど登場しない。信玄や勝頼のために死んだり殺されたりを繰り返す農民一家をひたすら描いている。殴り書きしたような方言交じりの文章が独特です。「先祖代々お屋形様のおかげになって」と言っていくさに向かう息子たちと、それを押しとどめようとする親たち。「お屋形様」を天皇に置き換えると、太平洋戦争の日本と似た心理状況と言えなくもない。詳細な記述は地誌や民話に基づいていると思われるが、どこまでが史実なんだろう。メイキングに関する著者の生前の記述があれば知りたいところ。2021/08/28

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