内容説明
放っておいて欲しい。それが僕が他人に求める唯一のこと――
ファッション誌編集者の羽野は、花と緑を偏愛する独身男性。帰国子女だが、そのことをことさらに言われるのを嫌い、隠している。女性にはもてはやされるが、深い関係を築くことはない。
羽野と、彼をとりまく女性たちとの関係性を描きながら、著者がテーマとしてきた「異質」であることに正面から取り組んだ意欲作。
匂い立つ植物の描写、そして、それぞれに異なる顔を見せる女性たち。美しく強き生物に囲まれた主人公は、どのような人生を選び取るのか――。
※この電子書籍は2017年5月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
222
この街は澱んでいるから限られた自然だけが救いとなる。全てが揃っているようで何もない。大切なものを覆い隠すように喪失感が広がっている。花だけが植物の本当の美しさではないように。人間のためだけに作られた果実が世界を満たす。種は永遠に芽生えようとしないのに。ここには庭しかなかった。星月も見えないのに常に明るい空。いつ眠りにつくかわからないのに笑っている夜。わかり合えない寂しさは当たり前なのか。適度な距離が心地よい美しさなのか。僕がここにいなければ都会の片隅で朽ちていくものもある。伝えようとしても伝わらないけど。2023/05/24
さてさて
161
『あの頃、僕の世界は庭だけだった』。幼き日々を過ごした異国での生活の先に、『植物』に囲まれ、『植物』と暮らす主人公・羽野の日常を描くこの作品。そこには、『部屋の植物たちが心配なので、僕は滅多に旅行には行かない』…と、『植物』を中心とした毎日を生きる羽野の日常が描かれていました。『植物』を全編にわたって描いていくこの作品。そんな『植物』への羽野の強い想いに少し怖いものを感じさせもするこの作品。言葉を発しない『植物』の不気味な静けさが背景となる物語の中に、冷んやりとした独特な世界観が癖になりそうな作品でした。2023/06/06
ベイマックス
96
はじめは植物の話しにイマイチ感出たけど、人間関係が絡んできて物語に面白味が出て来た。よかったです。2023/02/26
あすなろ
90
物足りぬと言えば物足りぬ。ても、そんな男を描きたかったのかとも思う。植物が好きな、というか想いを寄せる主人公に匂い・音・生命を五感を使って感じさせて語らせる。もう一味欲しいと言えばそうとも言えるし、これはこれで良いとも言える、僕にとっては不思議な作品だった。2020/11/01
クプクプ
81
期待以上に面白かったです。後半は息継ぎするタイミングがわからなくなるくらい、集中しました。千早茜さんが園芸に詳しくて驚きました。また、この小説は、植物に光を当てていますが、人間や恋愛のことはもっとしっかり書かれていました。東京の植物園が登場し、私も訪れた場所が出てくるので過去を懐かしく思い出しました。私も園芸や恋愛が上手くないですが、人それぞれの園芸や恋愛があっていいと、人生を肯定してくれた作品でした。2023/09/12
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