内容説明
歴史問題の全体像を理解するための最良の書
歴史認識問題、歴史修正主義…、
なぜ「歴史」は炎上し、差別意識を助長するのか?
いま世界的な争点になっている歴史問題について、
歴史学だけではなく、社会学や国際政治の視点から、
その背景に何があるのかに迫る。
気鋭の研究者らによる憂国の書、書き下ろし!
目次
第一章 「歴史」はどう狙われたのか?
第二章 植民地主義忘却の世界史
第三章 なぜ“加害”の歴史を問うことは難しいのか
第四章 「自虐史観」批判と対峙する
第五章 歴史に「物語」はなぜ必要か
第六章 座談会 「日本人」のための「歴史」をどう学び、どう教えるか
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
75
歴史修正主義に胡散臭さを感じている私にとって、社会学、歴史学の気鋭の研究者による本書の議論は非常に誠実に映る。1990年以降、世界は、過去の植民地主義に対する個や集団への国家賠償と政府による謝罪を求める時代になっている(「記憶の回復」)。そんな中で、イデオロギーに基づいて歴史を「創作」する歴史修正主義への危うさが募るが、彼らの魅惑的な「物語」に対して、「実証主義的マッチョイズム」に凝り固まる歴史学が余りにも無力である現実が嘆かわしい。「物語」と「真実」に橋を架ける網野善彦先生のような歴史家が待ち遠しい。2020/12/12
ころこ
46
第1章の倉橋は文化消費者よりも文化生産者の方が大事だといいますが、マルクス主義的に整合性が取れているのでしょうか。自分を見ろということですが、学知に対する敬意よりも学者の気位の高さが印象に残ります。「歴史否定論とミソジニーには強い親和性を見て取ることができる。」と無根拠な指摘があります。直後の安倍昭恵に対する個人攻撃は、むしろ倉橋の隠れたミソジニーが噴出したのではないでしょうか。第2章からは歴史の話になっています。前川は90年代になぜ日韓問題が噴出したのか論じています。結論は同意できませんが良い文章です。2022/01/12
yutaro13
40
百田尚樹『日本国紀』のような本がベストセラーになることには違和感がありますが、そもそも歴史を学ぼうと思って本屋に行ったら百田本が平積みされていたらそりゃそうなるわなと。本書でも指摘があるように、歴史アカデミズム側があまりにも社会と向き合ってこなかったのがその原因。網野善彦を引きつつ、アカデミズム内部からその姿勢を批判する呉座氏の主張は『陰謀の日本中世史』から一貫。アカデミズム外部から、アカデミズムと社会を接続するための「物語」の必要を説く辻田氏の主張は、一歴史ファンの私にも腑に落ちるものだった。2020/12/27
蜻蛉切
34
90年代以降に台頭した歴史修正主義の現状を分析していくという本は多々ある。 が、本書ではもう一歩論を進めて、歴史学会側(アカデミズム)の現状、問題点を指摘しつつ、良質な通史(歴史の見取り図、全体図)をどう構築していくのかという提言をおこなっている。 いずれの論者の論考も面白かったが、呉座さんの「網野善彦の提言」に関するものが最も興味深かった。 網野氏と言えば、専門の中世史だけでなく、「通史」の執筆、編纂に積極的に取り組んだ印象が強い。 新たな「良質な通史」の登場に期待をしたいところである。2020/11/09
おおにし
22
「大まかな見取り図」で歴史を語る一般向け歴史書を「実証主義的マッチョイズム」の専門家や歴史マニアがあら探しをしてネットで炎上させる。すると善良な書き手たちが委縮して撤退し、大炎上しても平気な鋼のメンタルを持つ歴史修正主義者たちのデタラメ歴史書で本屋が埋め尽くされてしまう。なるほど、だから最近まともな歴史入門書が見当たらない訳だ。2021/04/30