内容説明
人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた……。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
354
「龍女(ドラゴン・レディ)よ」「あなたをつかまえに来たのよ」―登場場面こそ多くはないが、キティ・ウーの存在はこの物語に独特のキラメキを与えている。彼女こそが、ムーン・パレスそのものだったのではないかと思わせるくらいに。さて、本編の主な舞台はニューヨークだが、この作品はけっして都市の文学ではない。かつてエフィングが、そして物語の終盤ではマーコ(僕)が彷徨ったユタをはじめとしたアメリカの広大さこそが、この小説の基底にある。そうした空間的にも、また時間的にも壮大な孤独の物語を読了して、なんだか茫然自失の思いだ。2012/12/04
はっせー
177
初めて詠んだアメリカ文学であったがとても面白く読むことが出来た! 主人公はコロンビア大学に通う男子学生である。父親を知らず母親も亡くしてしまって伯父さんのもとで暮らすことになる。その伯父さんとのエピソードがとても素敵で、伯父さんは変わった人だけど主人公のことを本当の息子のように可愛がっているのが分かる。主人公が不器用な生き方をするが、そこで助けてくれる人との縁が自分の過去に繋がることが分かる。偶然なのか必然なのか。アメリカ文学があまり触れてきてない分野なのでこれからもっと読みたいと思った!2020/03/21
ポルコ
151
月で始まり、月で終わる。壮大な詩のような小説だ。楽しい文体を噛み締めながら、ヘンテコリンなストーリーを面白可笑しく味わえた。2018/05/22
fukumasagami
142
それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。そのころ僕はまだひどく若かったが、未来というものが自分にあるとは思えなかった。僕は危険な生き方をしてみたかった。とことん行けるところまで自分を追いつめていって、行きついた先で何が起きるか見てみたかった。結果的に、僕は破滅の一歩手前まで行った。持ち金は少しずつゼロに近づいていった。アパートも追い出され、路頭で暮らすことになった。もしキティ・ウーと言う名の女の子がいなかったら、たぶん僕は餓死していただろう。2018/05/01
buchipanda3
120
「それは人類がはじめて月を歩いた夏だった」。前から読みたいと思っていた作品。冒頭から最後まで、止めどなく流れてくる語り手の思いの丈が込められた言葉にひたすら絡め取られているような感覚を持った。そして結構な苦みのある臆病で傲慢な青春譚なのだが、何かを踏み越えた起点感が読後にあった。その妄想に満ちた世界はむしろ人生の確かなものを曝け出しているかのよう。オースター曰くこれはコメディだそうで、そう確かに人生はコメディであり、その滑稽さを味わい尽くすのも一興。狂える雇用主の指示で月光の絵を鑑賞した場面が印象に残る。2022/03/31