内容説明
「そもそものはじまりは間違い電話だった」。深夜の電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、ニューヨークの街の迷路へ入りこんでゆく。探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章、そして意表をつく鮮やかな物語展開――。この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の旗手の記念すべき小説第一作。オースター翻訳の第一人者・柴田元幸氏による新訳!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
551
オースターの記念すべきデビュー作。主人公は、何があるかわからないニューヨークの街そのものというべきだろうか。小説そのものも混沌とした様相を呈しているし、登場人物たちもまたいずれも一筋縄ではいかない者たちばかり。篇中には『白鯨』や『鏡の国のアリス』をはじめとして実に様々な小説が引用されているが、とりわけベネンヘーリを介在させて、セルバンテスはあくまでも伝聞とする『ドンキホーテ』とクインの赤いノートとの相関が注目される。本書は、古典的な手法を用いた(風を装った)、きわめて現代的な小説だろう。2017/10/21
遥かなる想い
300
透明感のある文章が印象的な物語だった。 ニューヨーク3部作らしいが、著者はこの街を 血と暴力ではなく、実在の不確かさの視点から描いていく。 スティルマンを追跡していくうちに、自分の 立ち位置・存在を失っていくクイン.. 読者はクインと一緒に 物語の中を彷徨う.. 「大都会の砂漠」とでも言うべき なのだろうか? 読んでいると 安部公房の作品にも似て ひどく心が惑う.. 人の存在の不可思議さを お洒落に描いた 物語だった。2017/05/31
のっち♬
187
間違い電話をきっかけに私立探偵になったクインはニューヨークの街の中へ迷い込んでいく。ミステリー的な入りだが実態は都会人の不安や孤独を透明感のある筆致で描き出したもの。登場人物や展開の掴みどころのなさは「作者と探偵は入れ替え可能」という前提と相まって物語に無限の広がりと混沌をもたらしている。他者との繋がりも自分自身も見失った主人公が実感した"ゼロになることの快感"は後続の作品群にも通じる部分がある。言語や『ドンキホーテ』をめぐる議論も戯れ心が効いていて印象的。物語ることへの型にとらわれない思索を兼ねた作品。2021/06/21
Nobu A
127
ポール・オースター著書3冊目。読書会課題本。代表作「ニューヨーク3部作」を逆時系列に読了。柴田元幸訳者のあとがきに本書の経緯を含め、鮮少な評論が掲載。探偵小説として読むと完結性が欠如し消化不良になる。一言で言うと「味がある」一冊。本書の良さは前景でミステリアスな私立探偵物語を展開しつつ、後景に現実と物語の区別がつかなくなった騎士「ドン・キホーテ」や神への冒涜や言語が枝分かれる象徴の「バベルの塔」等、随所に仕掛けを施して相乗効果を狙っている点。フェルメールの「兵士と笑う娘」も然り。読み解く楽しみがある労作。2024/10/14
まふ
124
「ニューヨーク三部作」第1書目で短いが中身の濃い作品。見知らぬ男から電話を受けた主人公の探偵作家は、本人に会うといきなりベケットの「モロイ」のような独白的あいさつを受ける。その男を捨てた危険な父親が帰ってくるので接触できないように見張ってほしい、というのがその妻の依頼の内容である。それを引き受けてその父と接触するが特に危険はなさそうなので見張りをやめる。その旨連絡しても依頼元には電話がつながらない。話はここからおかしくなって予想外の結末を迎える。何とも不思議な結末であり、大層感銘を受けた。G1000。2023/02/18
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