内容説明
1941年、リトアニア。ナチスは乾坤一擲のバルバロッサ作戦を開始し、レクター一家も居城から狩猟ロッジへと避難する。彼らは3年半生き延びたものの、優勢に転じたソ連軍とドイツ軍の戦闘に巻き込まれて両親は死亡。残された12歳のハンニバルと妹ミーシャの哀しみも癒えぬその夜、ロッジを襲ったのは飢えた対独協力者の一味だった……。ついに明かされる、稀代の怪物の生成過程!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
439
タイトルの次のページに、いきなり宮本武蔵の「枯木鳴鵙図」が現れる。当然何のことかわからないのだが、やがてこの巻の後半でそれが明らかになる。絵画、音楽、俳諧へと日本文化へのオマージュが繰り広げられるのである。ハンニバルが日本語を話す?カタコトとはいえそうなのだ。また紫夫人なる麗人も登場する。トマス・ハリスはなかなかに造詣が深いのである。すっかりこれに幻惑されてしまったが、物語自体も頗る面白い。なにしろ少年ハンニバルの物語なのだから。リトアニアを出生の地に選んだのも見事な選択眼かと思う。2022/01/16
Kircheis
325
★★★☆☆ 殺人鬼ハンニバル・レクターがいかにして誕生したかを描いた作品。 子供の頃の不幸については前作『ハンニバル』でも少し触れられていた。それが詳細に語られることで、読者はハンニバルの心の深淵を知ることができる。また、日本人としては紫夫人の活躍が嬉しいところ。 上巻は割と展開がゆったりとしていたが、下巻ではハンニバルの凄絶な復讐譚が読めるはずなので楽しみだ。 2022/12/29
こーた
236
怪物にも青春はある。青春、とよぶにはあまりに凄惨ではあるが。人喰いハンニバルはいかにして生まれたのか。前作で仄めかされたレクター博士の幼少期が、詳らかにされる。戦時下のリトアニア。狩猟ロッジ。その光景は博士の荘厳な記憶の宮殿にすら記されていないほどに残虐を極め、読み進めるのが辛い。戦災孤児となったハンニバル少年を引き取る叔父は画家で、その妻である叔母がまさか日本人とは。スズムシの音を愛で、和歌の心さえ解する博士の守備範囲の広さよ。その叔母、紫夫人との関係は、クラリスとの共犯関係が主従顚倒しているようにも⇒2020/07/28
のっち♬
132
レクターシリーズ第4作。1941年にはじまるレクターの波乱に満ちた生い立ち。家庭教師から教わる"記憶の宮殿"や家族虐殺で被った心身の傷痕は前作『ハンニバル』と直結し、フラッシュバックを挿入した知的成長、紫夫人由来の美学、警視が抱えた罪悪感も他作と呼応を見せ、シリーズの延長として位置付けを明確化する。西洋思想に捉われない思想形成に著者は東洋思想が必要と考えたようで、日本文化への傾倒は異色。ディディールに他作ほどの重厚さはなく、推進力や緊張感にも響いている。こと上巻は成長譚としての魅力だけで持っている印象だ。2023/07/14
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
105
ハンニバル・レクターは数あるミステリーシリーズの中で、もっとも印象に残る登場人物の一人ではないだろうか?映画でのアンソニー・ホプキンスの怪演も心に残っている。そのレクターシリーズのエピソードゼロ。前半はまだその片鱗が見える程度。いかにしてあの「怪物」が誕生するのか?いざ後半へ続く。2019/10/08