内容説明
その白骨は干上がった湖底で発見された。頭蓋骨には殴られたらしい穴があり、壊れたソ連製の盗聴器が体に結びつけられている。30年以上前の事件らしいことから、エーレンデュル捜査官の手に捜査が委ねられた。丹念な調査の末、ある失踪事件が浮かび上がる。アイスランド全土をまわっていた農業機具のセールスマンが、婚約者を残し消息を絶っていたのだ。男の名は偽名で、彼の身分証明記録は一切なかった。男は何者で、何故消されたのか? 捜査が浮かびあがらせたのは、時代に翻弄された哀しい人々の真実だった。北欧ミステリの巨人渾身の大作。ヨーロッパミステリ大賞、バリー賞受賞!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
103
湖の底で発見された白骨をめぐる北欧ミステリーである。舞台はアイスランドで 霧深い雰囲気が北奥らしい。並行して語られる一人の男の独白が 冷戦時の東ドイツの不気味な雰囲気を醸し出す。この時代の 相互監視の仕組みが怖い… 東ドイツ ライプティヒに留学していた アイスランド仲間の間に何があったのか …時代に翻弄された人々の哀しい真実を 描いた北欧作品だった。2023/05/27
ふう
97
犯罪捜査官エーレンデュルシリーズ4作目。『この地に送られるほど外交官にとって最悪なことはない』とまで言われるアイスランドと冷戦時代の東ドイツが舞台となって、重く暗い物語が交互に語られます。「チャイルド」を思い出させる社会主義国家の非情な闇に、今もこれに近いことが起きている国があるはずと、やりきれない気持ちで読み進めました。エーレンデュルの抱える問題も相変わらずで、作品に登場する人々の誰もが生きることの困難に耐えているようでした。それでも人は生きていく…明るさの欠片もない物語からそんな声が聞こえてきます。2020/08/26
yukaring
82
干上がった湖の底から見つかった骨。30年以上前の人骨の頭蓋骨には穴が空き、壊れたソ連製の盗聴器が体に結びつけられていた。過去に遡って失踪者を探すエーレンデュルのチーム。彼の粘り強い聞き込みに部下たちもしぶしぶ腰をあげやっと不思議な消え方をした人物を探し当てる。そしてその間にもエーレンデュルの娘とのいざこざやシグルデュル=オーリの抱える夫婦の悩みなど、警官といえども彼らの人間らしい等身大の姿に親近感が湧く。今回は激動の冷戦時代に翻弄された若者たちの悲しみが切なく奥底まで染み入るようなそんな物語だった。2023/08/20
ひで📚🏈
70
エーレンデュルシリーズ第4弾の『湖の男』前3作同様このシリーズ特有の重苦しい雰囲気のまま物語が進みます。みんなハッピーエンドにならない展開も健在です。トーマス目線で語られる東ドイツ、社会主義…なかなか理解し難い部分はありますが、信じるものを失い愛する人を失い仲間に裏切られ…最後は… イローナの行方、ソ連の盗聴器等?な感じで終わった部分もありましたが。息子も初登場しヴェルゲルデュルとの関係性も進展し次回作以降の展開が気になるところです。2021/12/17
HANA
68
湖の底から発見された白骨死体。それにはソ連製の盗聴器が縛り付けられていた。登場人物全員に過去の影がべったりとへばりついているシリーズだが、今回もその例に漏れず。ソ連製の盗聴器という事で大体推測が付くだろうけど、今回影を落としているのは冷戦。冷戦というと今ではもう昔語りになっているけど、本書では刑事と犯人のパートが交互に語られ、全体主義やイデオロギーに翻弄された様が過去作以上に迫ってくる。今までの個人の過去が語られるのとは違い凡ヨーロッパ的な作品となっているが、重苦しい作風と共に足のミステリ堪能しました。2020/10/05