内容説明
火葬したはずの妻が家にいた。「体がなくなったって、私はあなたの奥さんだから」。生前と同じように振る舞う彼女との、本当の別れが来る前に、俺は果たせなかった新婚旅行に向かった(「ゆびのいと」)。屋上から落ちたのに、なぜ私は消えなかったのだろう。早く消えたい。女子トイレに潜む、あの子みたいになる前に(「かいぶつの名前」)。生も死も、夢も現(うつつ)も飛び越えて、こころを救う物語。(解説・名久井直子)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
472
タイトルと表紙画買いだったが、全然想像と違った。そもそもタイトル作がない詐欺(失礼)。でも作者独特の濃厚な言い回しを楽しむことができ幸せ。次はがっつりと長編で読ませて欲しい。2023/11/15
ベイマックス
108
6つの短編集。実際に身に起こったら怖い物語だけど、恐怖をあおる展開ではなく、人の心にある妬みや羨ましいとの感情や悲しみが、隠されつつも時に噴出して表現されてくる。そして、救いの手もある。でも、素直に救いの手を掴めないもどかしさ。物語が動くにつれ、心境が揺さぶられ、救いの手を取った時に、自分以外の周りの人もそれぞれが妬みや羨ましさなどを抱えていたと知り、後悔もし、自身を取り戻していける。そんな短編集だと感じた。ドキッとしたり、うるっとしたり、ほのぼのしたり、考えさせられたり、なかなかな物語でしたよ。2020/10/18
のいじぃ
105
読了。人の心に棲まう怪奇譚。裏表紙のあらすじとは印象が全く違う。しっかりと物の怪も出てくるので最初は何事かと困惑した。いくら救いがあっても、人によっては題材を含め苦痛になるかも知れない、そんな短編集。ただ、歪なのにどこか納得してしまう人の冥い情を滑らかな表現と文章でさらさらと綴り、つい目が追ってしまう不思議な魅力もある。中にはその性癖は墓まで持っていってくれないかな、と思いもしたけれども。あと、肉を食べ切ると連れて行かれるという怪談には既視感を覚えつつ記憶が遠い。これはホラーではなく人の心がもたらす怪異。2019/09/22
アッシュ姉
96
彩瀬まるさん五冊目。なんて怖い話を書くのだろうという第一印象で始まった短編集。悲しい出来事、つらい体験が暗い影を落とす。心に黒い染みがじわじわ広がり、獣や鬼や化け物に姿を変えてどんどん大きくなっていく。負の感情に支配され、深い闇に吸い込まれそうになる。死者の気配が色濃く漂い、幻に囚われて飲み込まれそうになるも、タイトルが示すとおり読後感は不思議と悪くない。恐るべし、まるさん。また一段と好きになってしまった。2020/05/13
やも
95
死が生きている人たちとの世界を分け隔てても、暗闇に長く居続けても、朝が来るまで誰かがそばにいてくれてる短編6話。大切な人を無くした悲しみが、死への抽象的な恐怖が、グロテスクに変わっていく。ホラーテイストな仕上がり。でもその果てに何かが浄化されていくような描写は、このタイトルがぴったり。お母さんを亡くした父子家庭の話【よるのふち】と、【明滅】に出てくる「あなたの名前を呼べば、大事にされたことを思い出せる」って台詞が気に入った。★32022/10/04