内容説明
千代は喪服を著(き)るごとに美しさが冴えた。……「葬式の時だけ男と女が出会う、これも日本の女の一時代を語るものと云うのだろうか」――16歳から中年に到る主人公・千代の半生を、喪服に託し哀感を込めて綴る「黒い裾」。向嶋蝸牛庵と周りに住む人々を、明るく生き生きと弾みのある筆致で描き出し、端然とした人間の営みを伝える「糞土の墻」ほか、「勲章」「姦声」「雛」など、人生の機微を清新な文体で描く、幸田文学の味わい深い佳品8篇を収録した第一創作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
きりぱい
13
これだけ不気味で、食べたくなくなるジャムパンの描写もないなと思っていたら、その後の展開には衝撃の「姦声」。小説と思いながら、身辺事情や気風が随筆で知る著者にあまりにそのままなので、その辺りは解説者も書いていたけれど、事実と錯覚してしまうとぎょっとさせられるのだ。「段」もまた、祝いの食支度のはずが落ち着かない謎がもたげてきて、戦後の物騒さがうすら寒い怖さ。よかったのは「雛」。完璧に雛膳を采配する母の気負いをたしなめる父の言葉と、姑のやわらぐ言葉がズシンとこたえるような、気持ちがほどけるような、で・・。2011/10/01
フリウリ
7
この文庫の裏表紙には、「佳品八篇を収録した第一創作集」とあり、幸田文の書きはしりの頃の作品が収録されています。「勲章」「雛」などの作品のなかには、どう控えめに見ても父・露伴その人が出てくるわけで、またその筆致も露伴に通じるものがあり、幸田文独自のスタイルはなお見られないと思いました。主人公の「女性」は、なんでも賢く切り回す「嫌味」な人ですが、最終的には世間にことごとく裏切られます。こういってよければ、幸田文が自分自身に対して、とても厳しい目を向けています。なまなかではできない態度だと思います。72023/08/19
amanon
6
「え、これエッセイ?それとも小説なの?」解説者も言っているとおり、あまりに等身大の著者とその家族を反映させていると思われるいくつかの作品に、そんな疑問を抱かされた。事実関係はそのまんまではないだろうけれど…そのリアルと虚構の危うい関係の間に立ちながら、著者は読者を自分の文学的世界へと誘っているのだろう…と解説を読んで認識させられた。それはともかくとして、その品格のある文体と何とも言えず読者をひきつけたり、はっとさせる擬態語の巧みさに改めて感服。また、そこにはまだ江戸の名残が濃厚な当時の東京の空気を感じる。2018/02/22
KEI
6
表題作を含む8編の短編集。確かこの本は小説の棚にあって、エッセーでは無かったはず…と、思いながら読んだ。幸田家の事を少し読んでいたので、小説とは思えない程リアルであった。畳み掛ける様な、リズミカルな口調、見事な心理描写に息を飲む様な思いだった。/勲章/姦声/雛/髪/段/糞土の墻/鳩/黒い裾/娘の初節句に心を尽くし過ぎた娘、嫁へ掛けた親の言葉を反芻する`雛´。父の祝いの膳を調える経過から最後にサスペンスの様に展開する`段´。義母の針刺しから長い間の親子関係から解き放たれて行く`髪´、表題作も良かった。2015/05/02
桜もち 太郎
5
8つの作品からなる短篇集。良かったのは「姦声」。これって随筆なのか小説なのか、でも書いてある内容は事実らしい。ということは本当に幸田文は犯されそうになり寸でのところで助かったということになる。「裸なんぞ何でもありはしない」ってどこまで際どかったのだろうか。そして表題の「黒い裾」もよい。「どこかの不幸のときにだけ顔をあわせて、その前後二三日を息の合った『相棒』で葬式事務に働く男と女」、16歳の時から50過ぎまでの葬式の手伝いにせっせと通う男と女はどことなくコミカルだった。2018/03/20




