内容説明
福島第一原発事故により、牧場の放棄と家畜の殺処分を命じられた農家。だが、それにあらがう男は「一揆」を決意。敵は国、東電、そして放射能――。“意地だけを武器に闘い、絶望の淵で《希望の牧場》が生まれた――。
本書は、3.11以降も警戒区域内で「牧場の牛を生かし続ける」ことを選んだ、エム牧場・浪江農場長である吉沢正巳氏を中心としたドキュメンタリーだ。不条理な国の殺処分命令に抵抗し、どのようにすれば、牛を生かし続けることができるのかを模索しながら、たどり着いたのが、人間にとっても「牛を生かす意味」があることを明確に打ち出した《希望の牧場・ふくしま》というプロジェクトだった。
この間、吉沢氏の活動はさまざまなメディアに取り上げられてきたが、その舞台裏は十分に伝えられていない。国、自治体、東電などに対する、言論による闘い。放射能を帯びた警戒区域内で身体への影響を顧みず、牛たちを保護、飼育することの過酷さ、そして喜び。吉沢氏の闘いをサポートする人々の姿。さらには、吉沢氏と同様、「動物たちの命を助ける」という大義を掲げるも、実は私利私欲に走った人間たちの醜さ。そうした状況の中から《希望の牧場》が生まれ、奮闘が始まるまでの物語を、1年半におよび、プロジェクトのメンバーとして自ら吉沢氏をサポートしてきた著者がまとめたのが本書である。思わず目を背けたくなるような写真も含まれるが、これもまた「3.11の真実」なのだ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りお
11
搾乳の為に柵の間から頭を出した状態で繋がれて、そのまま餓死した牛達の写真が衝撃的でした。 干からびた牛達がズラッと並んでる、どんだけ苦しんで飢えて死んだんだろうと考えると牛が可哀想で仕方なかったんだけど、牛を放して避難すれば、牛が餌を求めて他所の家に侵入して迷惑を掛けるかもしれないと、泣く泣く繋いだまま避難した人もいるそうです。どれだけ葛藤したことだろう。 当事者じゃない奴が牛が可哀想とか簡単に言っちゃいけないんだな。2015/01/03
sasha
4
福島第一原子力発電所から約14km。警戒区域内にある牧場「希望の牧場・ふくしま」で国が決めた殺処分を頑なに拒み、被曝した牛を生かし続ける道を選んだ人たちの記録。中心になっているのは同牧場の代表・吉沢正巳氏。彼が頑固なまでに牛たちの命を助け、守り続けているのか。その背景を垣間見た。尚、殺処分を決断しなければならなかった飼い主たちの苦渋もわすれちゃいけいない。そんな人々を非難する一部の動物愛護家って…おかしいわ。2016/01/05
chietaro
3
報道されていない福島の話が多いと思います。線量が高い地域にも関わらず動物の命を守るために動いている人々、福島の現状を伝えるために動く政治家、知らなければいけない実態や苦しみがたくさんありました。解決は相当長い時間をかけても難しいと思います。ただ、事実を知ることや伝えることが大切だと思います。いつか吉沢さんの話を聞きたいです。2018/02/12
Masao
2
この本の写真を見るだけで、現実のすさまじさが伝わってきます。もはや経済的価値のない家畜を飼育しつづけることの意味。いのちとか酪農家の意地。自分は本当には理解できないのだろうけど、でも読まなきゃいけない本だと思いました。2017/05/06
Daisuke Oyamada
1
テレビでは絶対紹介出来ないであろう、悲惨な写真がたくさん紹介されています。それらを見るだけで、悲惨な現実がひしひしと伝わって来るようです。 経済的価値のない牛を生かし続ける意味があるのか。生かしたい酪農家と、処分を要請する行政。 家族のように育てた牛を見捨てることは許さなかった。決断したのは、なんとか牛を生かし続けること。その苦しむ様子が赤裸々に描かれております。 「原発一揆」は牧場主本人の言葉だという。 一揆といっても暴動を・・・ https://bit.ly/3Ab66p22022/10/29