内容説明
著者が愛読してきたライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」の訳をはじめ、長年にわたる詩をめぐる思索が結晶した名篇。登場するのは、マラルメ、ゲオルゲ、ヴァレリー、ソフォクレース、アイスキュロス、ダンテ、夏目漱石、ヘルダーリン、シラー、ボードレール、グリンメルスハウゼン、グリュウフィウス、ドロステ=ヒュルスホフ、ヘッベル、マイヤー、メーリケ、シュトルム、ケラー、クライスト、アル・ハラージー…
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
52
イスラム神秘主義者ハラージから始まってマラルメ、ヴァレリー、漱石、ギリシア悲劇と地域も時代も多様な詩の試訳や鑑賞、それに伴う随想がいつの間にか『ドゥイノの悲歌』の訳に収斂してゆく構成。詩の鑑賞が大変苦手なのですが、この本では作者が、ある時は詩人の生涯に寄り添いながら、ある時は自身の人生を鑑みながら、また原文の一語に込められた意味に想いを馳せながら詩の世界を逍遥させてくれて、丁寧に詩との交り方を教えてもらっているよう。作者に手を引かれ、詩に凝縮された充溢の、無常の予感、沈黙の深さなどを目一杯堪能できました。2020/04/24
藤月はな(灯れ松明の火)
49
ギリシャ神話における吉兆(エウ・フェーミアー)を意味する言葉が持つ両義性に対するエッセーが興味深い。また、「ドゥイノの悲歌」は翻訳と共に添えに挑む古井氏の事も綴られている。そこに記されるのは、詩人の人生への敬意が絶えず貫く姿勢が貫かれている故に韻律の美しさや詩人が詩に籠めた意味や閉じ込めた刹那や無常などを如何に殺さず・壊さずにして読み手のイメージを膨らます事ができるかと言う苦闘の記録でもあった。2024/04/22
こうすけ
27
大江健三郎との対談のなかで話題にあがっていたので。内容は難しいけど、詩についてのエッセイ(後半はリルケの晩年の詩の訳文あり)という、なんだかありがたい読み物。日本の詩人についてのモノも読みたいけどないかな。2024/07/08
古義人
6
とにかく古井由吉の引き出しの多さに驚かされる。同時平行で進めていた『野川』に収録されている「埴輪の馬」は、幾つかの俳句を引用しながら筆を進めている作品で、本作とゆるやかな連関を成している。2020/02/22
刳森伸一
4
詩に関する随筆がリルケの大作『ドゥイノの悲歌』の翻訳へと流れていく。謙虚が過ぎる氏の語りによって、ともすれば好事家の回想の類に見えてしまいそうだが、実際には、詩や言葉への奥深い見識に裏付けられた稀有な随筆と翻訳で、一つ一つの言葉とその繋がりに驚嘆させられる。2020/02/29