内容説明
革命期のパリを舞台に大志を抱いた孤児が奮闘する物語。ひねりの利いた、身の毛もよだつ作品だが、読んだら決して忘れられない。その孤児はやがて王族とも急進派とも同様に友人となり、後に伝説のマダム・タッソーとなる。1761年、マリーというちょっと変わった容貌の小さな女の子がアルザスの小さな村に生まれた。両親の死後、彼女はいささか風変わりな蝋彫刻家の弟子となり、パリの裏通りにやってくる。そこでふたりは尊大で支配的な未亡人と内気でおとなしく蒼白いその息子と出会う。四人は、使い手のない「猿の館」を改装して蝋の顔を展示し、その見世物は一大センセーションを巻き起こす。マリーは芸術的才能を買われてヴェルサイユ宮殿に呼ばれ、王女の教師となり、出産で命を落としかねなかったマリー・アントワネットを救う。しかし宮殿の外では時代が動きだしていた。革命期の動乱のなか、民衆は王族の首を要求し……。ついに蝋人形館は……。エドワード・ケアリーの『おちび』は比類なき作品で、ひとつの世界を創ることになる「血に染まった小さな少女」の驚異の物語である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
184
マリーにとって、顎を失った父の衰弱死も母の縊死も大きな痛手だったが、この喪失によって彼女は両親の厳つい鼻と顎を引き継げたのだろう。蠟で頭部を作る先生に連れられパリに出た不器量なおちび・マリーは、やがて王宮に召され革命の波に揉まれる。流されつつ屈しない所は「不思議の国のアリス」や「千と千尋の神隠し」を連想した。もちろん状況はもっと現実的に深刻だが、物事をまっすぐ見て物怖じしない所(例えば王女とのやり取り)や、彼女が描く少し変わった絵などから、彼女をアリスや千尋と同じように応援していた。人を愛するって大変だ。2020/08/27
ちょろこ
124
読み応えがあった、一冊。あの有名な蝋人形館、マダム・タッソーの生涯を描いた作品。革命期のパリ。この激動の時代と、おちびと呼ばれたマリーの波乱万丈とも言える生涯は母との別れから老彫刻家の弟子になり…と、実に読み応えがあった。この時代にこれだけの技術があったのはもちろん、蝋人形は歴史の記録の一つの方法でもあるのか…そう思うと不気味というイメージしかなかったその見方も変わる。所々うかがえる、人生の分岐点でのせつないマリーの心情が印象的。いわゆる一人の女性の生きた証を小説で知ることができる、これって面白い!2020/03/12
美紀ちゃん
106
実話ではなく、ケアリーの作り上げたフィクション。フランスの蝋人形作家マダム・タッソーの物語。不気味で怖い挿絵だが、あちこちにたくさんあり、わかりやすい。幼い頃の話は、グロ恐い。恐い話なのか?と思いビクビクしながら読んだが、ヴェルサイユ宮殿に行ってからのマリーは見違える様に生き生きとしていた。城の錠前師と友達に。なんとフランスの国王でルイ16世だった。マリーアントワネットも登場。エドモンと、2人の間にできた娘を名簿に記した時の悲しみは、グッと来た。フランス革命時の混乱状態がよくわかる。壮絶な人生。2021/07/27
吉田あや
67
蝋人形のマダム・タッソー館設立者として有名な「おちび」ことマダム・タッソーが自伝的に自らの半生を語っていくという形式で進む、史実とフィクションが絶妙にブレンドされた物語。幼くして親を亡くし、蝋細工の師匠となるクルティウス先生と出会うことで蝋細工の道へと歩み出すマリー。苦しく厳しい生活の中で次々に襲う困難や別れが目まぐるしく語られていくが、記憶の断片を簡潔で短い章に分けて進んでいくのでとても読み易い。89歳まで生きたマリーの生涯を描くので(⇒)2023/02/13
秋風
64
「蠟の頭に髪の毛を一本一本植え付け、石膏の粉と水を混ぜ合わせ、暖炉に火を熾す」マダム.タッソーの壮大な歴史小説でした。幼い頃働いていた医師の所で見ていた蝋で人体の部分の模型を作る技術。孤児となりフランスに恩師と移り「猿の館」での蝋人形の展示からルイ16世の妹エリザベート王女の絵画教師としてベルサイユ宮殿に住み込む。血を流す革命期には王族やロベスピエールのデスマスクを作った。著者は蝋人形館で仕事をしていた事があり、この物語を描くに当たり15年を費やしたとの事でした。p571一気読み、面白かった!2019/12/19