内容説明
7~10世紀、中国東北部から朝鮮半島北部にかけて栄えた渤(ぼっ)海(かい)国。この歴史は長く忘れられていたが、こんにち、周辺各国が自国とのかかわりのみを強調しがちな「歴史の争奪」が起きている。こうした対立を乗り超えるため、国際交流を軸に、地域の大きな枠組みに焦点を合わせて多元的に捉え直す。河川流域に拠点を築いた多種族国家の実像に迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
112
渤海国については以前読んだ通史が詳しく、本書の歴史記述はあっさりしている。むしろ中国を相対化した東部ユーラシア世界の立場から、日本と朝鮮半島と中国本土から等距離に位置した渤海国の外交と交易と民族移動を概観することで、八世紀から十世紀頃の環日本海経済圏がいかに発展したかに焦点を当てる。唐からは文物移入や冊封体制で大きく影響され、満州の女真族や北上を狙う新羅とは常にぶつかりながら日本と結んで対抗しようとする。早々に滅亡せず長く存続していたら、日本海は地中海のような交易の海になり東アジア史も激変していただろう。2023/05/20
さとうしん
20
渤海国に絡んで現代の中国と韓国による「歴史の争奪」の問題、「冊封体制論」の批判、近年流行の「東部ユーラシア世界」論から見た渤海国、後身となる東丹国の評価など、議論が広範にわたっていて、かつどれも興味深い。著者自身は渤海国と統一新羅によって東北アジアは南北に分割され、それぞれ朝鮮世界と満洲世界の別々の道を歩むようになり、満洲世界は中国世界の一員となっていくという理解を取るが、それを著者が吐露するように、当時の「思い」や立場とどう併存させていくかは、重い課題となっていくだろう。2018/02/15
MUNEKAZ
16
「海東の盛国」と呼ばれながらも直接の後裔となる国が存在しないため、今一つぼんやりとした存在の渤海国。それを東アジア世界、ユーラシア東方世界、満州世界、環日本海世界と多様な切り口で見ることにより、全体像をつかもうとしている。そしてそれは渤海を満鮮一体の象徴として植民地経営に利用しようとした戦前の日本、自らを渤海の後裔として歴史論争を繰り広げる中国と韓国など、古代国家を現在の国家・国境線で捉えようとする「歴史の争奪」の愚かしさも伝えてくれる。過去は常に現在の政治問題に転化するのであろうか。2020/04/04
はちめ
15
渤海国自体の歴史を扱った本なので日本との交流に関する記述は少ない。渤海国を謎扱いするロマンチシズムを排除してあるとのことだが、所詮文字資料の少ない対象を扱っているのだから、本書も多くは推定で書かれている。ロマンチシズムを廃したせいか、日本に来た渤海使が当時の日本の文化人と交わした漢詩についても言及がない。貴重な文字資料だと思うのだが。2018年の出版であり新しい研究成果もあるが魅力に欠ける1冊だった。☆☆★2019/08/12
bapaksejahtera
9
「歴史」については近代概念である領域国家や国民国家を前提に考えがちである。島国の我が国は特にその傾向が強い。朝鮮や中国についてもその点例外ではなく、最近も高句麗や渤海を巡って両国の対立が見られる。渤海について本書はその特異な「国家」の性格を多角的な視点から考察しており、目を開かれた。独特なのは7世紀末の渤海建国から10世紀末滅亡までの通史を前半で述べた後、満州東南部の進んだ律令国家やユーラシア国家としての広域性、農耕民遊牧民的二相性、環日本海国際交通の担い手に論及する構成。小冊ながら内容の豊かな書である。2020/04/18