内容説明
前衛歌人で稀代の批評家、そして剛腕アンソロジストでもある塚本邦雄が、斎藤茂吉の秀歌に対して「弟子、一門の徒」とは別角度から真摯に迫り、批評・鑑賞を施した歴史的名著。茂吉の歌を照射し、その秘密に肉薄につつ、短歌を含めた日本詩歌のあるべき姿を追究する、茂吉ファン、塚本ファン、短歌ファンのみならず、日本文学に関心のあるすべての人へ。言語芸術の粋がここにある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
15
万葉の「寄物陳思(きぶつちんし)」は物に寄せて自分の心情を発露するという方法を取りながらもその物は幻視的であり写生というよりは象徴なのだという論理が塚本邦雄の斎藤茂吉解釈であるようだ。古典から題材を汲み取っていきながら象徴的に物語を語るのが、塚本のいう前衛短歌と合致するという。その写生という無味乾燥的なものだけではなく、象徴という浪漫主義(古典の世界)的なものがあると読む。その読みに過剰な印象主義的な思い込みが有りすぎる感じが批評としてはここまでぶっ飛んでくれると面白い。2022/11/16
あや
9
私は斎藤茂吉の歌はあまり好きではないですが、塚本邦雄が丹念に読み解いた文章は美しい。日露戦争の時与謝野晶子の詩が叩かれたが、同時代の斎藤茂吉が詠んだ戦争の歌は興味深かったです。島内景二さんの解説には貴重な逸話も書かれています。島内さんの解説の中に思いがけず塚本邦雄の同時代人として岡井隆さんのお名前が出てきたのもうれしかったです。自分が人の歌集を読む時の態度を問われた気がします。2021/03/25
ハルト
8
読了:◎ 前衛歌人・塚本邦雄が、アララギ派の斎藤茂吉の第一歌集「赤光」から百首を選定し批評した一冊。褒めたり欠点を言い募ったりと、一首一首細やかにそのよき点悪き点を、歯に衣着せぬ物言いで鮮やかに解説している。ぎっしりと実が入った果実のような重みがありました。どちらかと言うと塚本興味で読んだのですが、茂吉のさまざまな面と歌に触れられて、読んでよかったです。2020/02/02
宙太郎
2
前々から歌人は他の歌人の短歌をどんな風に読んでいるんだろうと興味があった。この本はそんな好奇心を予想以上に満たしてくた。歌の内容・文法はもちろん、語の選択、音韻、歌集の前後の歌とのつながり、類似の想の短歌との比較に至るまで、汎くかつ詳細に論じられており、作者の斎藤茂吉氏への偏愛が感じられる。素晴らしい点には素直に脱帽しつつも、気に入らないところは一刀両断という姿勢も潔い。「にんげんの赤子を負える…」の過剰な解釈はもはや妄想の域で笑えてしまう。塚本氏がいかにこの歌に没入しているかが伝わってくるのだ。名著。2024/04/15
shrzr
1
文芸文庫版が出てすぐ購入し読み始めたが、一首分読むのにもかなりの集中を要する高濃度さで遅々として進まず、ここにきてようやく読了。文体がかっこよすぎて危険。2021/09/19