内容説明
「アクアリウムaquarium」という語が一般に用いられるようになったのは、19世紀半ばのヨーロッパでのこと。鑑賞用に魚を囲いの中で飼う試みには古代ローマに遡る長い歴史があるが、アクアリウムはもともと、水生生物を飼育する容器や装置を意味していた。
海草も含めたひとつの「生態系」として、観察や鑑賞を目的に水生生物が飼育されるようになり、アクアリウムの歴史は始まった。それまで未知の世界だった深海の様子が知られてくるにつれ、人々は海に対する恐怖を克服した。19世紀は蒐集そのものが流行した時代であり、海洋生物の採集がさかんになった。こうした複数の要因が重なり、アクアリウムという装置が発明されたのだ。
海の生き物の生態を知りたいという人々の願望が、いかにしてアクアリウムの発展に寄与し、水族館の創設につながったのか。環境問題と切っても切り離せない、未来の水族館のはらむ問題とは何か。ユニークな文化史の書き手である著者は、豊富な資料をもとに、人々の夢や欲望の投影としてアクアリウム=水族館のなりたちを考察する。人口あたりの水族館の数が世界一とされる「水族館大国」日本で、水族館の過去と未来に思いを馳せる一冊。図版多数。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
94
表紙にはクジラの入った水槽の絵、とてもデフォルメされてて好きな絵ですがてっきり大きな水族館の歴史かと思いきや室内で楽しむアクアリウムのほうがメインでした。19世紀の半ばにはもう淡水や海水含めたアクアリウムが存在したんだね。アクアリウム私も一時期ハマったことあるのですが作るのはそんなに難しくないんです。あとの維持管理が大変。さおの維持管理を喜びとするか苦しみとするかが成功の分かれ道だと思います。当時の人々も海や水の中のことには並々ならぬ関心があったのですね。図書館本2021/01/03
ネジ
38
★★★★☆ 水族館の歴史として、19世紀に生まれた個人が楽しむためのアクアリウムからの変遷を追った内容。当時の水中世界への畏怖や好奇心、飼育のハードルの高さがわかる。 ①19世紀、ヨーロッパでは自然物の蒐集が趣味となり、海の生物の飼育へと繋がった。 ②飼いたい生き物のみ入れるのではなく、酸素の補給や海藻を入れることで長く生きることが偶然発見されたのが今のアクアリウムの原型である。 ③水族館から人間が学ぶことは今後も尽きないだろうが、生態系の破壊に繋がる乱獲は慎むべきである。2024/01/13
スイ
15
副題の『海が室内にやってきた』の方が内容と合っている。 後半は水族館の変遷についても語られるが、個人が家で海の動植物を楽しむようになった経緯が一番ボリュームがある。 タイトルを見て思っていたものと違ったが、これはこれで面白かった。 海を知り始めた頃の人々の絵も多く掲載されており、とても美しい。 終盤の、現在の水族館はショッピングモールと変わらないこと、教育を盾にして環境を壊していることなどが書かれた部分は明らかにトーンが違い、著者の怒りをかんじた。 この辺り、もっと著者の考えを聞きたかったな…!2021/11/05
ミムロ犬
6
原題は「海はどのように家へやってきたか」で、邦題はややミスリード。十九世紀に入って誕生した蒐集趣味としてのアクアリウム。当時のブルジョアたちには大ウケだったそうで、数ある挿画にはいかにも金がかかってそうな洒落た水槽がズラリ。スチームパンク風のものもあったりする。しかしその優雅な居宅空間を演出するには相当な苦労があったらしく、そこが本書の(文化史的に)ミソ。粗悪な運送に新しい商売の常といえる詐欺紛い(というか詐欺そのもの)の取引の横行などなど、なかなか阿鼻叫喚でこれぞ十九世紀と唸らされること請け合いである。2019/10/04
gokuri
3
世界の人々がいかに水生生物を室内に飼うようになり、個人の観賞用から、公共の場や水族館で展示される生き物を多くの人が楽しむようになったか、その歴史がきめ細やに記述され、豊富な文献と当時の挿絵により、読者をアクアリウムの歴史に導いてくれる。 筆者はドイツ人で本書〈2003年出版 2011年改訂販)は、英語版の翻訳とのことで、水族館好きにはたまらない本だが、本来は「アクアリウムの歴史」とすべきで、オセアナリウム(大規模水族館)の歴史ではないことに留意すべし。2025/04/15




