内容説明
フランス・パリ郊外に位置するフォンテーヌブローに移り住んで一年。著者はエッフェル塔と東京タワーを比較しながら理想の国家のあり方を模索。電力の75%を原子力に頼るフランスでエネルギー問題を考え、サッカーW杯で起こったジダンの頭突きからナショナリズムに思いを巡らす。海外に暮らし、相対的な視点で捉えることで浮かび上がってくる日本のかたちを鮮やかに綴るエッセイ集。
目次
聖マルタン、愛知万博、植民地の料理、車を燃やす
クリスマス、EUと多言語社会、コープランド、ブルギニヨン
厳寒体験、エネルギー問題、全世界が流謫の地
街頭民主主義、社会サービスの質
スコットランドの縁ふたつ
ピカソの見かた、書くための出発
マテラッツィが言ったこと
川辺の公園、共和国、独立戦争
冬の到来、エッフェル塔、敗者の歴史
カルメン、モンブラン、南部高速道路
ケ・ブランリーとディズニーランド
ラングドックの語学学校、サルコジ、ソミエール
フランスの景観、アズールとアスマール
修理するアフリカ人、翻訳文化、フランスの変化
サン・ナゼール、交通の方針
二十歳の頃、町の事件、異国としての日本
フィレンツェ、ドゥオーモ、工学的関心
セーヌ川を船で行く――あるいは内水面の文化史
あとがき
文庫版のためのあとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
408
著者は2000年代の初め、パリ郊外のフォンテーヌブローで5年間を暮らした。その折の思索を綴った、文字通りのエセー(モンテーニュばりのという意味において)。フランスと日本の彼我の差を並べ立てることに意味はないが、それでもやはりフランスが羨ましくなることしきり。政治的なデモにおいても、また景観を守る姿勢においても。また、歴史が持つ重層性のあり方が決定的に違っているように思われる。そのことは、篇中で紹介されているケン・ローチがアイルランドを描いた映画『麦の穂をゆらす風』にまことに象徴的なように思われる。2018/03/25
piro
28
当時パリ近郊のフォンテーヌブローに暮らしていた池澤さんのエッセイ。豊富な知識に裏付けられた深い話、フランスという国への鋭い考察など、知的興味を大いにそそられる一冊でした。私の知識ではなかなか付いて行きづらい所もありましたが、共感する所も多く、また私自身が朧げに感じていた事が明晰な文章で語られていたりして、大きな充実感を得られた読書時間でした。自由主義と共和国に関する件は大きく首肯。フランスに行って来たばかりだったので、より一層彼の国への興味が高まりました。2024/10/03
棕櫚木庵
19
セーヌの川辺にある,パリならぬフォンテーヌブローに暮らし,パリや地方,時にはイタリアやスコットランドに出かける生活の中で見聞きしたことからあれこれ思い考えたことを記した書.何百台という車が燃やされた騒ぎについて,この「争乱・暴動・蜂起・示威(立場によって呼称はこれくらい変わるはずだ)」(p.23)という一句からもうかがえるように,多様な視点からフランスや日本が論じられている.単純なフランス賛美でもなく,日本の夜郎自大でもない.自国を相対化する視点を与えてくれ,多くのことを教えられた.→2024/09/14
ケニオミ
16
連れ合いのお薦めの本です。コロナ騒ぎで近所のどの図書館も閉まっているので、読む本が手許に限られてきたため読むことにしました。フランスに住んでいた頃の池澤さんが記したエッセイです。教養がある人というのは彼の事を言うのかしらと思いました。嫌味がなく、広範囲の知識を見せていますね。異国にいるということで、日本の事を客観的に見て指摘していますので、読者の僕も勉強になりました。2020/05/02
ティオ
4
池澤さんの文章はやっぱり好き。「二十歳の頃」には感動に近い感銘というか共感を感じた。このエッセイで、自分がどうして池澤さんの文章が好きなのかがすごく腑に落ちた気がした。自分自身との向き合い方、世界との距離の取り方がきっと似ていて、だから読んでいて心地いいんだろうなぁ。2015/01/23