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内容説明
マルクスの『資本論』には「隠された奴隷制」というキーワードが登場する。一般に奴隷制と言えば、新大陸発見後にアフリカから連れて来られた黒人奴隷が想起され、すでに制度としては消滅している。しかし著者によれば、「自由」に契約を交わす、現代の私たち労働者も同じく「奴隷」であるという。その奴隷制はいかに「隠された」のか。格差社会はじめ諸矛盾が解決されることなく続く資本主義にオルタナティブはあるのか。マルクス研究の大家である著者がロックから現在に至る「奴隷の思想史」350年間を辿り、資本主義の正体を明らかにする。
目次
はじめに――「奴隷制」と資本主義
第一章 奴隷制と自由――啓蒙思想
第二章 奴隷労働の経済学――アダム・スミス
第三章 奴隷制と正義――ヘーゲル
第四章 隠された奴隷制――マルクス
第五章 新しいヴェール――新自由主義
第六章 奴隷制から逃れるために
終章――私たちには自らを解放する絶対的な権利がある
あとがき
註
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
38
ジョン・ロックや18世紀啓蒙思想家の奴隷論からヘーゲルに繋ぐ内容、マルクスの「隠された奴隷制」、そして新自由主義以降の労働者を取り巻く問題の3部構成で、それぞれの関連性が薄く不思議な違和感を感じたのだが、あとがきを読んで氷解した。著者専門の中央部に、前後を接続したもののようだ。マルクスの部分は昔の議論を思い出したが、面白かったのは前半の18世紀知識人の奴隷観の部分、一方新自由主義以降についても新しい説を紹介しており読みたい本が増えた。ただ、もう少し「資本主義の末期」について、著者自身の見解を読みたかった。2019/09/13
おたま
34
アダム・スミスやヘーゲル等の論を用いながら資本主義の労働が「自由な労働」ではなく「産業奴隷」であることを論証していく。「自由な労働」というのは、資本家側のイデオロギーだという。さらにマルクスを援用することで、それは、アメリカであった「直接的奴隷労働」ではなく「間接的奴隷労働」として現在も「隠された奴隷制」となっていることも示している。賃労働によってすでに現在の労働は「強制された労働」「奴隷労働」となっている。それに気づくことが、そこから解放される第一歩である。2022/06/11
松本直哉
33
資本主義はいつも奴隷制を前提とし、それなしには成り立たない。黒人奴隷が解放されても、隠れた形で奴隷制は続いている。自由な労働者のようにみえてもそれは強制された自発性。階級の差と搾取が存在すればそこには必ず奴隷がある。かつてハイチの奴隷たちが剣をとって立ち上がり独立を獲得したように、現代の労働者も、自己責任論を内面化して洗脳された隷従の状態から、声を上げて自らを解放しなければならない。アリストテレスからデイヴィッド・グレーバーまでの思想史を奴隷のキーワードで鳥瞰する試みが刺激的だった。 2020/11/06
ゆう。
33
資本主義社会での労働者は二重の意味での自由を手にしており、奴隷ではない。市民社会による自由権がある。しかし、過労死をも生み出し、搾取され続け、自己責任が蔓延る現実は、現代資本主義社会における奴隷化と同じではないだろうか。労働者階級は自由に隠された奴隷なのだと思った。そこから解き放つためには、労働者階級による階級闘争がかかせないのだとも思った。2019/12/14
ミッキー・ダック
28
著者は関大の社会思想史の教授。啓蒙思想からアダム・スミス、ヘーゲル、マルクス、新自由主義と辿り、資本主義と奴隷制の関係を探る。◆西欧においてのみ近代資本主義が成立したのは、その軍事力で植民地をつくり奴隷を搾取することで資本を蓄積したからである。奴隷制がなければ資本主義はなかった。そして今もなお、「自由な労働者」というヴェールに覆われた「隠された奴隷制」がなければ、資本主義は成り立たないのだという。労働者は労働力という商品を売る時は自由な主人であっても、売られた労働力は奴隷と同じ拘束を受けるからだ。 2019/11/14
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