内容説明
過ぎ去った遠い日や心の底深くに、しめやかな触手をのばし、生の根の不思議なゆらめきを鮮かに捉えた、虚無に献げる高貴な酒にも比すべき短篇集。真昼に現れ出た夢魔の如き「出口」、痛ましいまでの思春期の青年の心を描く「手品師」、瓦礫の中に青白い女の裸体が横たわる「廃墟の眺め」など14篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
65
苺を食べたり、海に行ったり、子供たちが遊んだり、昔住んだ家の思い出…。「出口」等一部の作品を除き、どれも誰もが普通に過ごす日常を描いた話ばかりなのだが、読んでいるうちにそれらを覆う不穏な空気に気付き、それに気付いた時にはそこにある陥穽に嵌り込んでいたという話ばかり。過程ばかりで結論も無いのに、そこらの怪談が裸足で逃げ出す程不穏。珍しくその空気が表に出て来たような「出口」の薄気味悪さと言ったら…何度読み返しても絡み合う鰻と釘付けされた家の奥での出来事とが絡み合い、夢に出てきそうなイメージを残す名作である。2024/12/26
酩酊石打刑
6
村上RADIOで「出口」の話があり、「話の肝」は自分で読めとのことだったので読んでみた。なんだかとっても懐かしい。〈第三の新人〉と呼ばれていた人たちの作品は、好感を持って読んでいた。村上春樹は〈ぬめり感〉と表現していたが、独特の粘りつくような表現、特ににおいの描写が特徴的だ。川村二郎の解説では「作者は読者の心を咄嗟につかまえると、それを自分の思い通りの方向に引きずって行き、あらかじめ仕掛けてあった罠にすとんと落とす、とでもいった、練達した心の猟師の役割を演じている」言い得て妙である。 2024/11/25
冨井 丸
1
★★★★☆ 一言で言えば、かなり面白かった。何を表したかったのか伝えたかったのさっぱり不明な話ばっかり。ただただ書かれただけのような話ばっかり。感想を問われたら困る話ばっかり。なんとなく話が始まって淡々と進んで劇的なオチもどんでん返しも教訓もなくさらりと終わる。だけど何故か惹かれる。何故か面白い。ほんと不思議。2021/06/20
ツライシ
1
お気に入りは「雙生」と「埋葬」。「雙生」では、迷路の中でさまようような不穏不安、それでいて心地よい興奮や倒錯をも覚える主人公に感情移入。どちらが妻でどちらが義妹か。「もう、お起きになったら」ラストにぞっとした。「埋葬」 家の前を呪いのようにさまよう女と、遺された猫たち。女が“恐怖の対象”なら“安寧”“癒し”だったはずの子猫三匹が、不意に自分の“咎”となり“隠し事”となる。子猫子犬の亡骸を見たことがあれば容易に想像できる「平べったい小さな座蒲団のように…」。生々しく息苦しい。2014/12/06
あかふく
1
吉行淳之介の1960年代前半の作品を中心とした短編集。すこしめんどくさい書きかたをすると、開高健が吉行の作品の女性について「ひとりの女性を書き続けている」と言うときに、この作品群はあまり女性を中心としてはいないが、それがイメージ(川村二郎が解説で言う Stimmung に近い)に関わり、「解釈」のものであることが思われる。その色が最も強いのが「廃墟の眺め」であり、その他にも「家屋について」、「双生」に濃くある。でもそれより「一緒に歩いていることだけで、愉しい」という部分もあってよいのではないかとも思う。2013/07/05
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- 和書
- 石川啄木悲哀の源泉