エクス・リブリス<br> 海の乙女の惜しみなさ

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エクス・リブリス
海の乙女の惜しみなさ

  • ISBN:9784560090589

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内容説明

2017年に没した著者が死の直前に脱稿した、26年ぶりの短篇集。『ジーザス・サン』の流れを汲みつつ、どん底から救済を夢見る人々の姿を通して、アメリカ的精神のゆくえを冷徹に見つめる5篇を収録。
「海の乙女の惜しみなさ」
広告代理店に長年勤務した60代前半のビル・ウィットマンの人生の瞬間をめぐる断片的な物語。老境に差しかかった語り手にのしかかる「老い」と「死」という主題が全体を貫く。
「首絞めボブ」
1967年、主人公はささいな非行により刑務所に収監される。そこで目にしたのは、無秩序の寸前で保たれている秩序、それぞれの受刑者が語る虚構すれすれの体験談だった。
「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」
詩人である大学教師ケヴィンが、才能豊かな教え子マークのエルヴィス・プレスリーに対する強迫観念を振り返る。マークはエルヴィスに関する陰謀説を証明しようとしていた。
「老い」と「死」という主題と、老いつつある「アメリカ」そのものを視野に入れた描写が、どの短篇にも色濃く現われている。生前、「現在においてもっとも影響力のある作家」と呼ばれた著者の集大成と呼ぶにふさわしい作品。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

ケイ

124
短編五つ。後半の三つは、作者の苦しさを体感するようでつらかった。喉から血を吐きながらのたうち回って叫び、こんなはずじゃなかったと頭を掻きむしる作者が、行間にいる。その行動故に、生に少しずつ背中を向けながらも、死に向かっている恐怖に怯え、死神を振り払おうとしているようだ。最初の『海の乙女の惜しみなさ』は、渇いた人生観が、諦観のようなものが、味わい深かった。2つ目の『…スターライト』では、一緒に死神に立ち向かおうじゃないかという気にさせてくれたのに。。。2019/06/25

ヘラジカ

52
一作一作に込められた力がありありと伝わってくる。強力無比の傑作短篇集。これだけの作品を書くには相当に身も心も削らなければならなかったのではないか。遺作であると聞くとついそんなことを考えてしまう。どれも長篇小説に比するほど濃密。特に「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」はデリーロやピンチョンの大作を髣髴とさせる傑作だった。2022/05/20

りつこ

42
初めて読んだデニス・ジョンソン。アルコール依存治療センターや刑務所暮らしという特異な状況の中でも、広告代理店を勤めあげたとしても、大学教師だとしても、満たされない気持ちや身の置き場のなさは同じで、そして死は誰にも平等に訪れる。乾いたユーモアはあるが描かれる死のイメージがあまりにリアルでぞくぞくっとするのだが、それは作者の夭折にも関係しているのではないか。奈落の底を覗き込みすぎたんじゃないか、そんな気がした。2019/06/22

三柴ゆよし

34
渇いている。叙情が忍び入る余地もなく。あの伝説的な『ジーザス・サン』と比べてもそうなのだが、にもかかわらず、この短篇集には胸が引き裂かれそうな詩情が詰まっている。たとえば死について。それはとりたてて甘くも苦くもなく、いずれだれもがその領域に達するし、要するに足を踏み入れた深さのちがいがあるだけだ。私たちは老若男女の別なく、例外なく死にかけている。デニス・ジョンソンは明らかにかくのごとき達観から出発した作家だが、とはいえ、どう考えてもはやすぎる死、なにかをかけちがえたとしか思えない死のかたちはたしかにある。2019/05/20

スミス市松

32
この短編集ではアメリカの不適合者たちが「クソバケツの奥底」に顔面叩きつけられた瞬間の、あの原初的な神を渇望する様はさほど見られない。救済を求める時期はとうに過ぎた。だが作家はただ静かに己れの死を待ったわけではない。磁石のように死を引きつける筆致である。そしてここに書かれた死にはどんな色も加えられていない。悲劇的な色彩も魔術的な色彩も持たず、あるいはその物量で示すこともしない。一つ一つの確実な死を無色透明に引きつけ書き継いでいくことで、何が視えてくるのか。それをデニス・ジョンソンは本当に死ぬまでやり続けた。2019/08/30

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