内容説明
児童文学を自らの生きる指針として読み、こよなく愛した心理臨床家の一人である著者が、子どもが主人公の物語を繊細かつ緻密な臨床家の視点で読み解く一冊。本書は1990年にマガジンハウス社から刊行された『〈うさぎ穴〉からの発信』の復刊。カニグズバーグをはじめ、エンデやケストナー、ギャリコ、また宮澤賢治や今江祥智、長新太、佐野洋子など、人生に多くの気づきや示唆を与える素晴らしいファンタジー作品の数々。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
11
羊を羊と呼ぶこと、言葉が現実にある対象を指示する時、言語学では外苑という。一方、羊をライオンと呼ぶこと、言葉が現実にない対象を指示する時、それを内包という。他者と外延記述を共有する意識は現実的であり、個々に異なる内包記述を持つ無意識は想像的/空想的とされる。著者は親から自立を始める10歳の子供に言葉の使用における外延と内包、意識と無意識の葛藤を見つつ、児童文学における「子どもの目」を通して、社会化した大人の現実が単層的になったがゆえに、子供時代には多層的だった現実を抑圧し、心の病が生じる過程を読者に示す。2023/02/13
阪口まな
5
ファンタジーの必要性、父親殺し、いま考えていることがかたちになってきた気がする。自我を確立する時期の子どもたちはもちろん、人間性から乖離した現代の大人たちにもファンタジーの力が必要なのだ。父親殺しの語彙が好きなのだけれども、いま考えるべきは人間関係の喪失か。2023/10/02
清水聖
1
準備中2024/03/11
kungyangyi
1
児童文学と言えるものは、子供におもねて単純なハッピーエンドを用意するような本でなく、時にどうしようもならない現実をしっかり描いたもの、といった文章が印象に残っている。児童文学は、子供だけでなく大人が読んでも面白いもの、とも書いていたと思う。