内容説明
信州小布施の豪商、高井家の惣領息子・三九郎は、かの有名な絵師の葛飾北斎に会うために江戸へやって来た。浅草の住まいを訪ねてみると、応対してくれたのは娘のお栄。弟子入りを志願するもまともには取り合ってもらえず、当の北斎はどこかへ出かける始末。美人画で有名な絵師の渓斎英泉こと善次郎にはかまってもらえるが、火事見物につき合わされたり、枕絵のモデルをやらされたりで、弟子入りの話はうやむやのまま。そんな折、北斎の放蕩な孫・重太郎が奥州から江戸に戻ってきたことが伝わる。同じころ、北斎の枕絵や鍾馗の画の贋作が出回る事件が出来し、重太郎に疑いの目が向けられるが……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
niisun
36
高井鴻山、葛飾応為、渓斎英泉が物語の進行役となって北斎を語る構成。北斎を中心に据えた曼陀羅図の如く、北斎に翻弄されながら生きた絵師たちの様を描いています。どうしても、先に読んだ朝井まかてさんの『くらら』と比べてしまいますね。まかてさんの『くらら』は応為というか、彼女の絵を核にして、“吉原格子先之図”に向かって紡がれていく印象深い作品で、梶さんの本作はある一時期に絞って描かれた群像劇で、登場人物たちのその後の人生や作品へと興味が広がる作品でしたね。朝井まかてさんの作品も梶よう子さんの作品も甲乙着け難し!2020/04/18
のびすけ
35
北斎の弟子になるために信州小布施から江戸にやってきた高井三九郎を主人公に、北斎とその娘・お栄、善次郎らが人間味たっぷりに描かれている。彼らの掛け合いが豪快でユーモラスでとても楽しい。彼らの絵に対する考え方や捉え方も、興味深く面白い。お栄さんは北斎から「アゴ」呼ばわりされてたけど、女性として魅力的だった。北斎父娘を描いた作品としては、朝井まかてさんの「眩」も良かったけど、本作もとても面白かった。2022/11/26
ううち
12
表紙絵に惹かれて購入。なんだかんだで改めて人を惹きつける絵なのだなと思う。北斎の弟子になりたいという男子と、お栄さんがメインのお話。旦那の笑顔下手くそだから離婚したというのは史実なのかな。2020/03/23
Noelle
10
北斎とその娘お栄、と善次郎こと渓斎英泉や入門志願の高井三九郎を巡るあれこれ。朝井まかてさんの「眩」でもお栄と善次郎がとてもいい味していたが、こちらもまた二人の絡みに加え、甥っ子重太郎を巡る贋作騒動に三九郎の持つ妖の謎など、魅力的な筋立て。北斎もお栄も画を描くしかないから描く。それが絵師の絵師たる所以と問答無用に描かれる。三九郎は鴻山と画号をもらい、やがて妖の絵を残したようだ。こんな関わりがあったとは。晩年の北斎を招いて信州小布施の寺に描いてもらった「鳳凰図」や紅と藍地の屋台の「龍鳳図」が目に蘇った。2020/07/14
かみーゆ
7
楽しい本でしたねえこれは。いろいろ読んできたけど一番キュートで魅力に溢れたお栄でした。英泉の軽さも素敵だし、北斎が見せる画狂老人たる一面も素晴らしかったし。最後の「父娘合筆だ」のところとか最高だな。高井鴻山、北斎からもらった画号ってことにするとはね。妖怪画いっぱい描いてたっていうのは知ってたけど、なるほどなあうまいなあ。今度小布施に行くときは鴻山記念館も行かないといかんですね。梶さん、いつか晩年の応為の話書いてくれないかな。加賀に行く伏線もあったし、悲しくない終わり方を描いていただきたいものです。2025/09/23




