内容説明
夏草おい繁る祗園女御塚、墨色の暮靄に沈む祗王寺……、一ノ谷、壇ノ浦へ、そして大原寂光院へ……。春浅き西海に散った平家の滅びの美を謳う一大叙事詩「平家物語」を、「人間業」の記録とみた著者がいざなう、もう一つの平家物語の世界。――歴史の舞台を彩った人々の、封じこめられた呻き、悲歎、呪咀を行間につたえる歴史紀行。平家の舞台を旅しその「心」を探る。この1冊をポケットに平家物語を歩こう!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
65
平家の勃興から西海に没するまで、そして灌頂の巻まで歴史作家がそれぞれの舞台となった場所を巡った紀行文。平家物語というと無常の文学であるが、この作家の筆遣いで夏の夕暮れの六波羅、今なお潮が流れる壇之浦などが当時と現在の二重写しのように時代を超えて蘇ってくるよう。有為転変、兵どもの夢の後というが、時代を超えて場所に過去を蘇らすのも作家の力量であるな。この旅も五十年前で現在はさらに変わっているだろうが、それでもやはり場所は記憶を孕んでいる事に間違いはなさそう。個人的には消失前の寂光院が見えただけでも良し。2022/01/25
高橋 橘苑
19
ゆるゆると日曜日毎に読み続けた平家物語も、いよいよ最後のくだりまで来た。平家物語という古典をどう捉えたらよいのか、という問いには、未だ茫漠として答えが出ない。ただ、琵琶法師の語りに心を震わせ、遠い過去の壮大なる歴史絵巻に想いを馳せた古の人達と同様に、変転流転する人の世の無常が心に去来するだけである。そうして、現実では無理なので、せめて紙の上だけでも杉本氏の流麗な文章で、平家物語を歩いてみる。鹿ヶ谷、宇治の里、倶利伽羅峠、熊野、壇之浦、寂光院。こういう優れた紀行文を読むと、旅情をかきたてられる。2016/05/05
kuchen
9
平家物語の紀行文。初出は1960年代らしい。著者の研ぎ澄まされた五感を通して景色が再現され、平家物語の世界へと誘う。その地を訪れてこそ見えてくるものもあるようで、人となりにも深く入り込み、事象も鮮やかに解釈する。平家物語をさらに知りたくなる。2023/01/28