内容説明
徳川家康に信頼され重用されて、幕府草創期に辣腕を振った能吏・本多上野介正純(こうずけのすけまさずみ)。二代秀忠の世になり、「宇都宮釣り天井事件」の嫌疑で失脚、奥州に無惨な幽閉の身となる。権力の非情と冷酷、汚名に甘んじる自己犠牲。一切を黙して配所に赴く正純の潔い人間像を、陰密の目を通して骨太に描き出す、傑作歴史長編。権力の冷酷非情に甘んじる、自己犠牲の武士道!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
のり
46
「家康」から信をおかれた「本多上野介正純」。有能過ぎる為に、家中からも妬む者もでる。主の命を受け、間者として正純の失点を探る「謙作」だったが…2代「秀忠」にも尽くす正純だが、過去の因縁が再燃するかの様に、突き放される。理不尽極まる行為にも粛々と受け入れる武士道。それをみた謙作の心の動き。家康の右腕の末路には悲しさが募る。2024/10/30
よし
6
「汚名」とは誰のことなのか、最後までわからなかった。読み終えて、なるほどそういう事だったのか、と納得。家康亡き後、徳川政権を盤石にしていく人物こそ、本田正信・正純だった。そして、「汚名」を辞さず、牢囲いの中で、捨て石の境遇を甘受していく。あとがきに「屈折した自己犠牲のの爽やかさ厳しさに、せめて小さな光をあてたくてこの作品を書いた。」という。「一将功成って万骨枯れる」・・彼らは「主君が蒙るはずだったダーティー・イメージのいっさいを引き受ける覚悟で生きた」のだ。悲劇だけど、読み終わって満足感に満たされた。2017/06/23
sine_wave
5
本多上野介正純の居城、宇都宮城に隠密として入った謙作は、正純の人柄に深く魅了される。ところが、つり天井で二代将軍秀忠を亡き者にという疑いから、正純が失脚する。汚名を着せられる様子を、内側から謙作の目を通して描いた作品と言えようか。2017/02/24
うさえ
2
本多上野介を探る諜者の視点から、世に言う「宇都宮釣り天井事件」の顛末を描いている。新聞小説ということもあってか、テンポよく物語が進行し、読みやすい。主人公謙作をとりまく登場人物も、みなそれぞれに個性的で魅力があり、最後まで楽しめた。この世は理不尽なもの、とわかってはいても、ラストはやはり切なさが胸に沁みる。敢えて全てを書き切ろうとしない姿勢に、昭和を代表する歴史作家の品格を見た。2023/04/20
えびえび
0
釣り天井事件の顛末を追うお話。堀伊賀守と加納殿の諜者の絡みが面白いですね。噂がひとづてに歪んでいく様が事件の真相なんだなと思いました。副題にでも釣り天井の文言があればよかったかな。2014/03/10