内容説明
「四国って土地だから行政からほっといてもらえるのかもしれない」二年に一度、村の全員で住む場所を移す「村うつり」。私は“足”を澄ませ、移った故郷を探す(「ふるさと」)。三崎の若い漁師達は遭難し、マグロになった。海に飛び込もうとする彼らを叱咤したのは船頭の大マグロ。励まされ、必死に漁を続けると――(「野島沖」)。生も死もほんとうも嘘も。物語の海が思考を飲みこむ、至高の九篇。(解説・彩瀬まる)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おかむー
76
新年一冊目にとても不思議な一冊を読んでしまった。『トリツカレ男』の著者が描くとても不思議な余韻を残す短編集。『よくできました』。一篇目は幻想的、二篇目はそこに神秘的な雰囲気が加わるが、三篇目からがこの短編集の本領発揮。幻想、神秘よりも混沌とした脈絡のない夢のなかのように掴みどころのない感触なのに、個人の想いだけでなく生と死、世界とヒトのありかたさえも内包して、心のなかの温もりにも影にも訴えかけてくる何かに揺さぶられる。言葉にはしがたい作品なのでこれは試してもらうしかない、そういう意味でオススメの一冊。2019/01/03
えりか
47
いしいさんの独特なリズムが織り成す海に纏わる短編集。震災・津波を想起させるシーンあり。恐ろしい部分もあるが、その先に優しさがある。乗り越えようとする逞しさというよりは受け入れる優しさがある。暗闇の先の一筋の光。傷ついた子供たちの心を癒そうとする犬、孤独な者たちが集まった海賊団、海からピアノによって運ばれてきた少女。不思議で悲しいお話の先に、心にあたたかな風が吹き込む。安心感、という言葉が近いかもしれない。海は溶け合っている。人と人とが、悲しみや喜びを含むあらゆる感情が。そしてもしかしたらこの世とあの世も。2019/01/10
エドワード
34
海や山は人々に自然の恵みをもたらすが、時には災害をももたらす。人々の笑顔が一瞬後には凍りつくような、生と死が隣りあう世界を描く幻想物語集だ。標題作が最も穏やかかな。浜辺に打ち上げられたグランドピアノと、ピアノの中で眠っていた少女。その日から人々の生活に彩りが生まれる。いつか彼女が去るだろうとの予感は的中するが、後に五十二本の白い木と三十六本の黒い木が残されるところが嬉しい。ひらがなで記された詩も美しいね。海賊たちや漁師たちが挑む海、アフリカの川の棺。二年に一度村ぐるみ引っ越しするとぼけた話も面白い。2022/02/01
いちろく
30
読書会交換本。幻想小説よりも大人の童話と表現した方が近い印象の短編集。わけがわからないけれど、わけのわからなさを楽しむ。何故?と答えを熟考するよりも、ありのままを受け入れる。私にとっては、考えるな感じろ!という作品だった。普段の自分なら手に取らない作家や作品に触れるキッカケにもなる、という交換本の良さを正に経験した一冊でもありました。他の人の読メ感想を拝見して、やっぱり震災の影響も反映されているよね?と納得出来たのは、ココだけの話。今年の読み納め本。2019/12/31
プル
29
今回は物語に入って行けず。そしてとっても時間がかかりました。独特のフワッと感、本当は好きなんだけどなぁ。2019/02/11