内容説明
ご先祖に思いを馳せるファミリーヒストリー。
私のご先祖様には花火に魅せられ、一財をつぎ込んで生きた静助さんという人がいる。
―――時は明治初期。江戸から東京になったが、地方ではいまだ江戸と呼ばれていた時代。その江戸から遠くない村で大地主の次男坊として生まれた静助は、ご一新で世間が大きく変わるなか、何不自由なく暮らしていた。
ある日、静助は母親と出かけた両国の隅田川で打ち上げ花火を見物し、ひと目で心奪われる。江戸の花火屋たちは、より鮮やかな花火を上げるため競い合っているという。
村に戻ってからも花火への情熱が消えない静助は、潤沢な資金を元に職人を雇い、花火作りに夢中になるが、富国強兵へ向かう時代の波が、次第と静助一族を呑み込んでいく……。
※この作品は、『空に牡丹』(単行本版)の文庫版となります。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふじさん
87
幸せと寂しさを併せ持つ花火の魅力に取りつかれ、財をつぎ込んだ清助という男とその一族のファミリーヒストリー。大地主の次男として生まれ、何不自由ない暮らしを送っていたが、隅田川での打ち上げ花火を見学し、花火の魅力に取りつかれ、潤沢な資金で次々と新しい花火づくりの挑む。果てに、清助一族は窮地に追いもまれていく。しかし、浮世離れした清助の生き方を悪く言う人はいない。美しいものを追い求め、人々を幸せにしてくれたという思いが皆の心にあるから。清助のような人が存在することが、人々に希望を与えるのだ。 2022/07/25
ユメ
44
時は明治、花火を上げることに熱狂した静助という人がいた。すぐに消える花火に財をつぎこむのは馬鹿げていると苦言を呈されても、静助は儚いのは人の命も同じだと返す。どうせぱっと散るなら、美しく。「この世の虚しさを美しさに変えて、花火は空に消えていく」自分の生き様をしみひとつなく綺麗にするのは困難でも、束の間浮世のしがらみを忘れて花火に思いを託すことはできる。静助のことを酔狂だと呆れながらも、丹賀宇多村の人々は奉納花火に見惚れ、心地よい夜の時間を共有した。美しいものを見たいと願う人の心を形にしたのが、花火なのだ。2019/08/14
akio
41
花火に魅せられた、というより花火に夢中になりすぎた静助さんの物語。善良で優しくて人が良くて憎めないけど残念な静助さん。とても愛された静助さん。花火が打ち上がり、弾け、輝き、夜空に溶けていく様に、何故か泣きたくなる気持ちと通じるものがこの物語には込められています。レビュー数がこんなに少ないなんてもったいない、おすすめ本です!2019/08/23
ドナルド@灯れ松明の火
16
大島さんの直木賞以前の作品。花火に取りつかれた清助の一生を描いている。実話かな?と思って読み進むがどうやらそうではないようだ。家族状況などの説明が、ややくどくて途中からは惰性で読んでしまった。2020/07/29
inarix
8
幕末、江戸からそう遠くない村の大地主の次男坊として生まれた静助さん。子供の頃に見た花火の美しさに心奪われ、長じて後には職人を雇い、資金を援助し、外国から入ってくる新しい薬品を買い集め、より色鮮やかで大きな花火を作り、打ちあげることに夢中になる。やがて静助さんの花火は一世を風靡するが、かつての名家は凋落してゆく。静助さん。花火道楽で家を傾けた残念なひとなのに、彼を語る人びとは不思議と笑顔。夜空に大輪の花を咲かせ儚く消える、一瞬の花火の記憶が永遠に語り継がれる。そんなファミリー・ヒストリー。「いい花火だった」2019/08/31