内容説明
どん底に生を受け、殺人を犯し、脱獄を果たした、ナサニエル・ヘイレン。奇妙なシリアル・キラーと旅を共にし、新たな倫理を打ち立てながら悩める者を解き放つ。彼らを追うのは白聖書派の使徒、ネイサン・バラード。文明崩壊後の北米を駆ける傑作ロードノベルにして、“食人の神”黒騎士(ブラックライダー)の穢土(えど)降臨を描く、未来世紀の神話。頁を開け――物語の奔流にその身を任せよ。中央公論文芸賞受賞作。(解説・吉野仁)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ずっきん
80
『ブラック・ライダー』が好きすぎて読むのを躊躇していたが、東山彰良祭りの勢いに乗って、やっと読んだ前日譚。前作を貫いていた黒騎士伝説。荒廃と飢え。食人の罪と許し。ナサニエルがいかにして神格化されていったのか、彼と世界が変容していくさまが、ドキュメンタリータッチで描かれる。どうしたって、マッカーシーの『ザ・ロード』を思い浮かべてしまうが、もっと人間の体温と匂いを強く感じる読み心地。メロジーヤへと続く再生の始まりの物語でもある。この前日譚を踏まえて、もう一度『ブラック・ライダー』にもみくちゃにされたい。2021/05/24
sin
78
その罪に魂を呪われた諦念の姿に、神を重ね合わされ神話へと祭り上げられた男の話。前作『ブラックライダー』の生命力を燃やし尽くすような荒々しさはない。荒廃した世界に自分達を見失った人々の混乱と、その最中にあって罪の自覚に依って罪を超越した主人公に惹かれる人々の人間性の復権が伝記作家の筆に依って淡々と描き出されていく…作家が描き出した曾ての飼い犬の述懐では長い旅の間に主人公の心は死んでしまったと語られるのだが、彼の心は隕石が落下する前に死んでしまったに違いない。その滅私の姿が人々に神を幻視させたのかもしれない。2019/01/20
Junichi Yamaguchi
44
『人の心に悪魔が棲みつくこともあれば、悪魔の心に人が棲みつくことだってある』… まさかの前作あり。 その前作の前日譚。 神様への想いは人それぞれ、都合のいい神様はこの世の中には数え切れないほど転がっている。 もしかしたら、この作品で描かれた未来は、日本国の近い未来なのかもしれない。。2019/01/04
kasim
33
『ブラックライダー』の前日譚で、本当ならナサニエル・ヘイレンを主人公とする本作こそその題が相応しい。BRほどではないが、やはりスケールが大きく読みごたえがある。BRでは死後マッチョな英雄のように伝説化されているナットだが、ここでは繊細で心のきれいな少年で、明らかにBRのジョアン・メロヂーヤと重なる。世界が滅亡に瀕する時に現れる掃き溜めの王子様のような主人公とそれを排除する役目を担う追跡者、という構成も同じ。本作の特徴は追手のネイサンが作家で、普通の若者が救世主に創作されていく様を調べること。2022/12/22
ころこ
29
『ブラックライダー』を読まないといけないらしいが、未読のまま読む。追跡というのが探偵と犯人のようでいて、実はイエスと追いかける弟子との関係にプロトタイプがあったことを気付かせてくれる。ある程度の教養がなければ読めないところがエーコ『薔薇の名前』のようだ。『ブラックライダー』と合わせた背景を文庫の解説でかなり親切に書かれており、この解説は有難かった。日本の純文学、大衆文学というドメスティックなジャンルを超えようとする意図が著者の日台の来歴と重なり、意図しない形で様々に考えさせられた。2023/11/24