内容説明
アルシノエ二世は、初期ヘレニズム時代における王族女性の苦難と栄光を一身に体現した人物である。アレクサンドロス大王の死後、後継将軍たちが互いに抗争しながら独自に王国を建設していった当時、王権は一夫多妻制をとりつつ明確な王位継承原則をもたなかったため、息子たちの間で継承をめぐって激烈な争いが起こった。アルシノエ二世は三度の結婚のうち二度でそうした争いの渦中に置かれ、息子を目の前で殺される。ようやく安定と栄光を手にすることになる三度目の結婚相手は、実の弟、プトレマイオス二世であった。両親を同じくする同士の結婚はギリシア世界ではタブーでありながら、二人はなぜこの特異な結婚にふみ切ったのか。著者は倫理的偏見を廃した上で、これをアルシノエ二世の生存戦略という観点から解明していく。
生前に神格化されたアルシノエの祭祀は、エジプトにおけるギリシア人とエジプト人の新しい絆となった。そしてアルシノエの地位と権力、その表象は、マケドニアおよびプトレマイオス王国の王族女性の歴史で大きな転換点となり、あのクレオパトラ七世にも影響を与えたのである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
23
わりと学術書っぽかったです。 2019/02/01
こぽぞう☆
17
図書館、新刊の棚より。相変わらず忙しく、表紙が綺麗な女性の彫像で、名前がエキゾチック、という程度で借りてきてしまったが、読んで良かった。アルシノエ二世はアレキサンドロス大王の将軍だったプトレマイオス一世の娘で最終的には実の弟、プトレマイオス二世の妻となりエジプトの共同統治者になる。小説ではなく、論文調なので読みやすくはないが、私の歴史認識にとって、アレキサンドロス大王に終わるギリシャ史とクレオパトラで終わり始まるローマ帝国エジプトの間を理解する大きな手がかりになった。2019/05/16
Mana
11
プトレマイオス1世の娘にしてプトレマイオス2世の王妃となった愛弟女神とも称されたアルシノエ2世。著者はマケドニア王族女性についての研究者。エジプトについての本かと思ってたけど違った。彼女が生きたのはアレクサンドロス大王死後、各国に分かれた後継者たちが争っている時代。そのせいで彼女の人生も波乱万丈。もっと時代が進むとそれぞれの国も独自路線に進んでマケドニアという共通項はあまり意味がなくなるみたいだけど、この時代の中心にマケドニアが残っている世界観だったのが意外でありつつも納得。2019/06/25
遊未
11
初代プトレマイオスの娘で三度結婚。三度目が同母弟のファラオプトレマイオス二世。大変な人生が結構淡々と描かれています。系図複雑、しかも世代と年齢層は一致しない。巻末の索引、原注、訳注、参考文献で74頁分という本でした。エジプトで姉弟婚が始まり、エジプト(らしさ)となった意味、意義を述べることが主意でしょう。2019/05/23
uniemo
9
読み易い記述ではないけれどとても面白かった。アレクサンドロス大王後の古代エジプトの王族のお話、三度の結婚の内二度目の結婚で異母兄と結婚し初婚でできた子供を夫に殺され、三度目の結婚で同母の弟と結婚して共同統治者として後々までも神格化されるという生涯。クレオパトラ7世については読んだことがあって実弟と結婚していたというのを知って驚いていたのですが、祖先にこのような史実があったのが興味深かったです。2019/09/22