内容説明
祖母に懐き、祖母なくしては一日も過ごせないほどのわたし。祖母から聞いた――椿の花の咲き乱れる断崖上に6歳の男児がいたが、連れ立っていた盲目の母の姿はなく、その子の手の先では金剛鈴が鳴っていた――という話を聞いて以来、わたしに取りついた恐ろしい夢……凄艶な情念、ほとばしる詩情! 表題作のほか、美と幻想の9短編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
UK
21
なんでもない日常の風景とふとそこに差した一抹の影。最後の場面でその裂け目が一気に広がり、声にならない悲鳴とともに心の暗部へと落ち込んでいく。普通と異常が、愛情と憎悪が、ふっと反転してそのまま時空が凍りつく。そんな一瞬を独特な空気感で描いた9編。表題作は祖母のとある想い出話を聞き、心に長年闇と憧憬を抱いた孫娘の一瞬の愛憎の変転劇を描いたもの。冒頭これでまず刺される。そして最後の「金襴抄」子供の時から凝り固まった人の心の闇の怖さ。うわあそんな顔でこっちを見ないでくれ!真夏なのに寒い。 2014/08/01
夢道場
20
お気に入りさんの感想で興味を持った初赤江瀑作品、幻想的で繊細な世界観の短篇集。一番のお気に入りは「砂の眠り」2014/08/03
redbaron
12
いつも行く古本屋のおかみさんが「あなたなら、絶対気に入る」と言われ購入。おかみさん、ありがとう。気に入りました。表題作でやられました。『金襴少』がお気に入り。息子の母に対する感情が最後にぞっとするわ~。この方の本、まだあの店にあったな。買いにいこ。2015/10/08
skellig@topsy-turvy
10
10篇の幻想と官能、怪奇と狂熱。「春眠」はわずか7頁の幻視めいた作ながら、気のせいか少々SFの気配。「平家の桜」は、死体が根元に埋まっていると名高い「桜」という樹の怖さが美しく活きている。「金襴抄」では母と息子の極限感情が、鍵となる華麗な衣装を通して暴かれる。お腹一杯、のちにおかわり間違いなしの一冊。2013/04/14
ふくしんづけ
9
『春の寵児』『朝の廊下』『耳飾る風』がいい。『春の寵児』『耳飾る風』は珍しく書くことそれ自体の意識が滲んだ作品。特に前者は、路地の〈金雀枝、木瓜、辛夷、野薔薇、桜、木蓮、桃、庭石菖、宝鐲草、三葉躑躅、花菱草、小手毬、山吹、踊子草、蓮華、菜種、山桜桃、菫、連翹……と数えあげたらきりもない花々が咲きみだれ〉る色彩の濃さ豊かさ、絡みあう姿態の熱情など赤江らしさがこの集では強いのも気に入る。『朝の廊下』も〈安住の地なんて、ない〉芸術の意識。非道徳も放埓も著者にかかればあっさりと、根底の美を剥きだしにされる。2022/06/13
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