内容説明
「戦争を終わらせるための戦争」がファシストの台頭を招き、第二次世界大戦への道をつくった。戦争論の新たな古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Toska
16
1922年のスミルナ虐殺事件(トルコ)を描いたプロローグからして重い。これほどの事件がほとんど知られていない、という事実がさらに衝撃的。第一次世界大戦終結後、東中欧や旧オスマン領で吹き荒れた暴力の嵐は、その凄まじい規模にも拘らず充分な注目を集めてこなかった(唯一の例外がロシア内戦か)。WWIの東部戦線は忘れられた戦線だった、という野村真理の指摘が思い出される。今なお残る西欧偏重の潮流に挑み、「忘れられた」戦後の解明に挑んだ労作。2024/01/25
健
13
第一次世界大戦から第二次世界大戦までの期間は「戦間期」と呼ばれているが、中東欧の人々にとっては暴力と殺戮の日々であったことが描かれている。その原因はヴェルサイユ条約であり、ウィルソン大統領が掲げた「民族自決主義」でもあったようだ。こうなると戦争は人間の性なんじゃないかとも思えてしまうが、ハプスブルク帝国やオスマン帝国の下では、少数民族もそれなりに平和に暮らしていたそうだから、何が正しいのか分からなくなってくる。ただ、イギリスのちょっかいが問題を複雑にしていることだけは確かのようだ。2022/02/07
たばかるB
12
1917ロシア革命〜1923ローザンヌ条約締結までの敗戦国+伊と希の推移のまとめ。テーマは、帝国の崩壊の裏にあった思想対立と暴力、紛争の着目。反共に伴ったユダヤ差別や敗戦の原因を内部の穏健派、平和主義者にしたことで生じた極端な排斥運動がもたらす暴力描写には胸に込み上げるものがあった。 膨大な参考文献と注釈(合わせて130p)が示すように情報量は広範で微細。逆に言えば、全体像がつかみづらい(特に戦況経過の部分)。2019/03/28
MUNEKAZ
11
C・クラークの名著『夢遊病者たち』を思わせるタイトル。あちらが1914年に至る道のりなら、こちらは1917年から23年までに大戦が「終わり損ねた」ことを描く。ドイツの戦争賠償ばかりが注目されるが、他の敗者の国にもより過酷な条件が課されたこと。民族自決に従って東欧やバルカンに生まれた諸国家も、内には多数の少数民族を抱え、帝国の縮小版となっていたこと。なにより大戦によって解き放たれた暴力が、共産主義への恐怖やナショナリズムに従って蔓延していく様は凄まじい。大戦後のヨーロッパの混乱が俯瞰できる良書。2019/03/18
ケイトKATE
8
第一次世界大戦は1918年11月11日に終結した。しかし、終結後も世界各地で苛烈な暴力が続いた。特に敗戦国であるドイツ、ハプスブルク帝国、オスマン・トルコ、そして革命で帝政が崩壊したロシアは、民族間の抗争、共産主義と反共産主義の衝突、国境を巡る紛争が繰り広げられた。正直、第一次世界大戦後の暴力について、初めて知ることが多く驚かさせられた。本書の副題が象徴的で、第一次世界大戦を終わり損ねたために、全体主義が台頭し、第二次世界大戦における絶滅戦争へと繋がったことを本書は証明してくれた。2019/11/19




