内容説明
父の末弟で、受験に何度も失敗し、自らの生を決めかね、悲しい結末を迎える若き叔父・御年。彼の書き残した父宛の手紙で構成した「遠景」をはじめとし、夢の手法をまじえて綴った「復活」ほか、生家をめぐる人々をモチーフとした作品を中心に、ギャンブル仲間であった一人の男の意外な出世と悲惨な転落を追った「虫喰仙次」など、全9篇を収録。戦後最後の無頼派作家の描く、はぐれ者たちの生と死、そして原点としての父と生家。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松風
21
私自身の劣等感を、「這い上がれない」感覚と、しがみつく思いを、なぜ、こんなにも的確に言葉にしてくれるのか。2015/08/23
刳森伸一
3
生きるのが下手な人間の肖像という感じの短編小説を9篇収録。切なすぎて、作中人物に対してなぜそんな生き方しかできないのかと聞いてみたくなるような作品が多い。特に『陽は西へ』と『虫喰仙次』がいい。2014/06/20
fumi
3
雀の戸籍。そのフレーズに痺れました。私も50時間くらい寝なかったらこんな文章が書けるだろうか。 彼は虚実のあわいを体験的に書くのではなく、体験して書くのだ。2008/11/10
バーベナ
2
博打うちから会社のナンバー2にまで成り上がる「虫喰仙次」。でもその末路は・・。色川さんには、最期まで見届ける(見届けてしまう)視線がある。そこが怖いけれど、凄いなと思う。「九段の杜」も同じく。昔の懐かしみを、ずるずるとひきずって生きるのは、並大抵なことではできない。気が狂いそう。2014/04/23
eleking
2
「虫喰仙次」は結局初読だっけか。中小規模の会社勤め人は読んで身につまされる部分も多い。これもまた〈しのぎ〉が描かれている一編であろう。「復活」の現実と地続きの幻想も作者らしい味。2013/06/08