内容説明
関ケ原合戦のおり、千数百名の軍兵の血を吸って落城した伏見桃山城。その床板を使った洛北の禅寺・獣林寺の血天井を学術調査中、ルミノール鑑定にひときわ青く燃えたって発見された、新しい血の斑痕……歌舞伎の魔に挑み、燃え朽ちていった魂の咆哮を描く表題作のほか、「ニジンスキーの手」「禽獣の門」「殺し蜜狂い蜜」の阿片的魅力の代表作3篇も収めた、伝奇ロマン傑作小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
67
最近、赤江瀑熱が再熱して再読。赤江瀑作品はつくづく、女は決して入れない男同士の密やかな信頼関係や芸の境地に到達するための過程を耽美に描く。それに陶酔すると同時にもう、赤江瀑作品が読めないことが哀しい。努を心配しながらも歌舞伎への執着を努に押し付けるエゴをぶつける西江さんと「阿修羅花伝」の前日譚でもある「禽獣の門」で登場する雪政さんが好きです。「ニジンスキーの手」でとうとう、一人ぼっちになってしまった彼の叫びとある男の遺言が遣る瀬無い。2016/11/12
ふくしんづけ
12
堕ちていく。連れられる。闇に落ち込むすれすれの境地。芸能に籍を置くことは、彼岸に半身を置くことと同義だと繰り返し言っていたのである。欲と狂気に身をとられ、均衡を崩して落ち込めば、帰ってこれなくなる。引きずられそうな題材で、読み物として成り立つのは、読み手との距離の取り方が絶妙だからだろう。少数派な性癖を扱いながら、当事者たちが登場人物に己を添わせるようにはなっていない。まさしく、作る作家。再読ながら表題作の、死体に生を与える歌舞伎の説明は堪らない。「禽獣の門」も素晴らしい。手にした傷は望むものだったのか。2020/10/28
Melon Matsuda
5
結構耽美系で得意かと思ったが、読むのに意外と時間がかかった。内容は素晴らしく、名作系だと思います。2017/07/01
nightowl
5
どれも何かしらの選集に取られている四編。歌舞伎への苦悩から倒錯していく表題作といつものパターンとは少し異なる結末が意外に思える、狂気で才能を引き出されるバレエダンサーの「ニジンスキーの手」はまだ序の口で、鶴を探し出し新たな能の形を取り込もうとする「禽獣の門」はそのきっかけとなるエピソードの濃厚さに眩暈を起こし、どちらが本当に文芸賞を獲得した詩集を書いたのかと連城三紀彦のミステリーのように進んでいきながら、最後には蜂を用いたとんでもない悦楽の方法が登場してやっぱり赤江瀑になる「殺し蜜狂い蜜」がとにかく鮮烈。2009/05/16
mnagami
4
濃密な文体とそれによって語られる異常な物語は他にはない魅力。耽美とか幻想とか言われているけど、そういったことがだけでは表現しきれない。まずは読んでみてとしかいいようがない2017/01/04