内容説明
処女作「雪洞にて」は、山岳カメラマンが朝の光で樹氷を撮ろうと雪の斜面に掘った穴に潜む短い時間の心理と回想を、瑞々しく綴った秀作。「蟹の町」は、詩性にあふれた筆致が不思議な町を浮かび上がらせる快作。他の2篇も、暖かい人々の情景を描かせれば日本一と注目を集める作家の、みごとな出発点となる小説だ。詩的感性あふれる鮮烈なデビュー作。内海文学の原点がここにある!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新田新一
28
内海隆一郎と言えば、市井に生きる普通の人々を暖かく描く作品で有名です。主に1990年代に活躍し、その頃に作品を読んで良い作家だと思っていました。『人びとの旅路』という作品が心に残っています。『蟹の町』には文学界新人賞を受賞した「雪洞にて」が収められています。純文学の作品集で、後年の作品と雰囲気が異なっていると思いました。「雪洞にて」が一番心に残りました。緻密で瑞々しい筆致で描かれた短編で、朝日に輝く樹氷を撮影しようとする男性が描かれます。平凡な日常生活の中に潜む一瞬の輝きが巧みに表現された佳作。2024/09/02