内容説明
シンギュラリティの到来に一喜一憂しても、「人工知能の時代」は確実にやってくる。だからこそ持つべき視点がある。コンピュータがいかに「見て」「動いて」「考える」かを、錯視やロボットの例を用いて徹底解明。そして「生命」を深く考えてこそ分かる「椅子に座る」ことの本当の意味。注目の新鋭研究者が迫る「知能」の正体!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
禿童子
33
元NECの研究員として、人工知能の研究の実地に裏付けられたシンギュラリティ否定論。説明が整理されて、各章ごとに末尾に要約されて読みやすい本でした。ただ、「意識」と「身体」の関係、「生命」の本質についての議論は抽象度が高く、他の章の記述が明快であるのに比べて必ずしも一読で理解できない部分があります。ダマシオ、サール、デネットの著作からの引用が上手くまとめられていて参考になりました。現代の情報化社会は「人間とコンピュータの共生」で、主体性は人間にあり、マシンがそれを補助・拡張するというのが著者の見立てです。2019/08/21
bapaksejahtera
13
書題からロボットの運動制御問題かと誤解したが、本書は幅広く今日急速に発達した人工知能をいかに有効に活用しうるか、複雑な生命体である人間と人工知能の今後について、その共生をも見据え哲学的に論ずる。コンピュータ処理速度の爆発的拡大で、人工知能が未来社会を支配するとの古い言説が尚残る。本書はこの誤り例を挙げる。脳科学者はヒトの視覚情報が、乳児以来身体発達と連動して徐々に高度化する事実を提示する。画像処理の精度向上のみでは人工知能の入力情報として機能しない。既知の記述が多いものの全体として説得的な論説を構成する。2022/10/23
たこ焼き
11
遺伝的アルゴリズムが機能しないのは人間が導き出してほしいスピードで最適解にたどり着いてくれないから。完ぺき最適化は前提が変わると崩れる。人間のニーズに変わる(つまり前提が変わる)と最適化は全部やり直し。人と人工知能の違いは価値判断や行動を自分の目的に応じて自らプログラミングし直せるかである。前提が変化した後に人間が満足するようなゴールを自ら再設定し、方法の最適化をするまで自動でやれるようになったとき、シンギュラリティが実現する。2022/01/02
武井 康則
9
現在、人間の「知」を超えるコンピュータは出現する目途もたっていない。一二章でコンピュータの歴史、現在までの状況を解説し、何ができないのかを詳述している。三四章で認識のためには自ら能動的に働きかけなければならないが、身体のないコンピュータには無理であり、無限定空間で調和的関係を作り出す不可能性を語る。精神、意思、心とはこのまとまりのない世界でやっていくため、自分を尺度にする目的であるのではないかと著者は言う。これは今までの心理学や哲学での意識論で一番腑に落ちた考えだった。2020/01/24
マカロニ マカロン
9
個人の感想です:A-。現在AIの世界ではシンギュラリティというのが盛んに言われ、AIは人類にに豊かな未来をもたらしてくれるという楽観的な見方を示している。しかし、著者はAIには身体性がなく、人間の脳や認識、判断力、進化、循環などの解明がまだ不明な部分多く、AIは椅子に座ることすらできないと言う。AIが椅子に座ろうとすれば、どれが椅子なのかまず椅子の定義づけが必要、さらに目的を明確しないと椅子を認識し、座るという判断が出来ないとする。非常に面白い議論で、シンギュラリティに否定的な状況が提示されていた。2018/12/03