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内容説明
度重なる自然災害によって国土は破壊され、資本主義の行き詰まりにより、国民はもはや経済成長の恩恵を享受できない。何のヴィジョンもない政治家が、己の利益のためだけに結託し、浅薄なナショナリズムを喧伝する――「平らかに成る」からは程遠かった平成を、今上天皇は自らのご意志によって終わらせた。この三〇年間に蔓延した、ニヒリズム、刹那主義という精神的退廃を、日本人は次の時代に乗り越えることができるのか。博覧強記の思想家が、政治・経済・社会・文化を縦横無尽に論じ切った平成論の決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hatayan
37
政治思想史の切り口から平成を振り返る一冊。 日本を美しい国であると称揚するのは幻のセーフティネットで安上がりのナショナリズム。自己責任を旨とする新自由主義と相性がよく、政権の思惑にうまくはまったのが日本会議。宗教と政治の政界を束ねることができた作曲家の黛敏郎の存在が日本会議を表舞台に押し上げたことを挙げます。 平成のナショナリズムは、国民国家崩壊をせき止めるポスト近代、東アジアの冷戦構造に対応する近代、明治への憧れを露わにする復古の考え方が混じった複雑怪奇な様相を呈していると容赦ない切り口で攻めます。2019/07/25
trazom
27
博覧強記の片山さんの語りを聞いているような一冊。「天皇・災害・ナショナリズム」という一見無関係な副題が見事に三題噺を結んでいる。「楽天的虚無主義」の日本人に、天皇は「居る」「座す」「知る」という形で関わる。万葉集の「庶民に対する愛の歌」のココロが、平成の災害時に、膝を折って被災者と交わる天皇の姿に重なる。黛敏郎の梵鐘と声明との関わりと師・橋本國彦への思いが「日本会議」に繋がっていることも納得。「資本主義に民主主義の国民国家を抱き合わせるのが経済成長の最適モデルだ」という公式が崩壊したのが平成なんだと知る。2019/03/22
無重力蜜柑
13
「平成」という時代を縦横無尽に論じるエッセイ。著者が専門とする天皇制や政治思想に関する話が多めだが、もっと広く経済や安全保障やAI、それに特撮やSFやホラーといったサブカルチャーまで手広く取り上げている。ただ、幾らなんでも手広すぎるのと、全てを滔々と語ってしまう片山節のために居酒屋でおっさんの愚痴を聞いてる感が凄い。実際、安全保障やサブカル(特にSF)の方ではかなり首を傾げてしまう記述もあった。とはいえ、戦後天皇制や日本会議、平成ナショナリズムあたりの論は流石の面白さで、著者のファンなら読んで損はない。2025/06/03
まると
13
著者初読みですが、博識な方ですね。万葉集や昭和のSF小説・映画などを縦横に引用しながら、天皇やナショナリズム、経済といった多彩な視点から「平成」を切り取っています。インターネットによる情報の錯綜化・多量化が視野狭窄を生む中、複雑化した資本主義に対応するため教育期間が長期化せざるを得なくなっているというのは、大変重要な指摘だと感じました。冷戦後にマルクスが読まれなくなり、人間を不在とする資本主義の本来的凶暴性に気づかない知識人が増えているという指摘にも、強い共感を覚えます。2020/08/29
しゅん
13
災害の繰り返しと終わりなき資本主義。日本人固有のニヒリズムを歴史的パースペクティブから築き上げ、平成におけるナショナリズムが一枚岩でないことを詳細に説明する。黛敏郎と日本会議の関係性、保田與重郎と繋ぐことで見える今上天皇のロマン主義など、興味深いトピックが目白押しである。北一輝と麻原彰晃の同一視はどこか根拠が薄く感じられたが、他はかなり説得的に論じている。天皇制を巡る議論も多く紹介されている、明治〜大正期の経済と国際政治の相互作用がわかりやすく記述されてるなど、不学の私には大変勉強になる一冊だった。2019/02/22