内容説明
東海岸に渡った不二子を追い、ついに想いの丈を伝えたカヲルは、この恋にふさわしい男になるため、天性の美声をさらに鍛えることを決意する。しかし、このときはまだ、静かな森の奥で、美しく成長した不二子を見つめる、比類無き恋敵の存在には気づいていなかった……。血族四代が悲恋の歴史を刻む「無限カノン」の物語は、甘美なる破滅の予兆をたたえ、禁断の佳境へ深く踏み込んでいく。「無限カノン」第二部。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
98
「無限カノン」3部作の中では一番面白い。恋をする人間のじれったさ・無謀さが読者を息もつかせぬ激しい恋の世界へと運んでくれる。破滅に向かって突き進むカヲルの気持ちが読んでいて、痛い。「麻川不二子」もよく描けていると思う。三島由紀夫の『豊饒の海』を彷彿させるような物語だった。2010/06/26
らむれ
74
も、もどかしい…!む、むずがゆい…!とか思いながらも、作品に翻弄されている自分。どこかで既視感があると思えば、純文学の恋愛作品を読んだときの感覚に似ています。カヲルの優柔不断をなじり、アンジュの女の欲におののき、不二子の鉄仮面ぶりに呆れながら、登場人物の心情の変化を掌の上で感じて楽しみました。最期のデートの切なさよ・・・。満足。恋愛と並行して1巻では歴史問題を語りましたが、今回はさらに踏み込んで、天皇制に言及しちゃいます。あな、大胆。日本とは何か、を問いかける作者の姿勢に共感。考えることって大事ですよね、2015/12/03
佐島楓
48
各方面への皮肉と鋭い糾弾が、激しい恋情と並行して走っている。『エトロフの恋』へ。2018/06/29
ふみ
24
私がおばあちゃんになったとき、思い出すのはどの恋なのだろう? 蝶々夫人 マッカーサーの愛人 皇太子妃候補 この作品の魅力は大掛かりな設定にもあるんだけど。そこはとりあえずおいといて。2018/06/11
しんすけ
15
読み進む中でカヲルのなかに、宇治十帖の薫が潜んでいるのでないかと苛まされてしまった。カヲルは歌手として才能に絶大なものをもっているのに、恋には恵まれていない。薫も権力の中央に居ても恋には恵まれない。薫は、その恵まれなさにいろいろと理由をつけ、女たちに不本意な行為をなしても己を墜すことは無かった。カヲルも恵まれなさに悩んでいるが、理由をつけて逃げるようなことは無い。著者は薫の否定的な存在としてカヲルを産みだしたようにも想う。 カヲルと不二子の恋は互いの距離が離れていくのに反比例して大きく燃え上がっていく。2020/08/04