内容説明
タイトルの「且坐喫茶(且く坐して茶を喫せよ)」とは、禅の言葉で「まぁ、お座りになってお茶でも飲みなさいよ」の意味。茶の師匠から人生のすべてを学んだという作家・いしいしんじは、アロハシャツにジーンズ姿で師匠の門戸を叩いたことからはじまりました。その茶観は、どのようにして形成されていったのか。本書では、著者が禅僧・牧師・茶人・現代画家・和菓子作家・陶芸家などを亭主とする一期一会の茶事に臨み、一亭一客の狭小の茶室のなかで坐して茶を喫した経験を通し、日本人の美意識、亡き師匠の思い出などを綴ります。月刊誌『なごみ』2014年連載「しゃざきっさ」に加筆をし単行本化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
33
★★★☆☆ いしいしんじさんの様々な場所での茶道の体験を一冊にまとめたもの。エッセイという体裁こそとられているものの、茶道という文化そのもの、茶室という空間、茶道に臨む上でのいしいさん自身の心情等、様々なものの描かれ方に、いしいさんらしい言葉選びの味わいが感じられ、そういう面ではエッセイを読んでいるというよりも、むしろいしいさんの小説世界に飛び込んでいるかのような感覚であった。茶道に触れる機会なんて今までなかったし、これからもまずない気はするのだが、読んだこの瞬間だけはやはり茶道に興味を持ってしまう。2016/05/23
スイ
12
「真剣ですよ、いしいさん、真剣よ。あいまいに生きていて、いったい、なにがおもしろいもんですか」 作家のいしいしんじさんが、幾つかのお茶席について書いた随筆集。 茶道を文章で書けるんだ!というのにまず驚く。 平易な言葉、しかしとても新鮮な世界を見た。 胸に染み入る文章だった。 何を見ても、何を感じても、いしいさんの心は亡くなった茶道の先生に還っていく。 あるいは、先生の周囲を回り続ける衛星のようでもある。 茶道だけでなく、人が人を思うことや、生と死を静かに突きつけて来るような本だった。2018/05/09
のりたまご
11
「且坐喫茶」とは禅語で「まぁ、しばらく座ってお茶でも飲もうよ」という意味。作家のいしいしんじさんが書かれた茶の湯にまつわるエピソードは、まさに亡き先生とのお茶を通しての邂逅だ。お茶は花や書、香り、建築、味、ことばなど近世日本の美意識を含んだ総合文化といわれ、ならばそこに死生観がはいりこまないわけがない。いしいさんは「お茶」を「生き物」や「血」のようだと例える。一見のどかな静寂の中に、「たたかい」の残り香を感じる。「真剣ですよ、いしいさん。真剣よ。あいまいに生きていて、いったいなにがおもしろいもんですか」2021/09/29
tsubamihoko
8
いしいしんじさんとお茶?という所から気になり読んだ本。茶の湯の世界は形から入るというが、そこからが奥が深い。わからなくて当たり前、無理してわかったふりをする必要はない。この本を読んでいてお茶の世界は、哲学のようだなと感じた。森下典子さんの『日々是好日』に書かれていることとも通じるような気がしました。2020/11/08
あゆみ
8
素直な強さをもって生きる「茶の人」、耳にはあらゆる音楽が聴こえ、目にはあらゆる色彩が映る。無知な人間にはある種「崇高」で近寄り難くも思える「茶」を、身近に見つけ続けるいしいさんの姿と言葉に、とても静かに心打たれました。本当にうつくしいもの。本当においしいもの。その本当をきちんと心に映せること。目の前のことをただひとつずつ大切にしてゆくことに、どれだけ私が憧れているか。私の周りにも、と思うとなぜか清々しい気持ちになる。生と死の切実な味が確かに茶碗の中にある。その緑色を覗きこみたいと思いました。2019/11/10
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