内容説明
片足に障碍を持ちながら山王町で水商売をする澄江は年下で喘息持ちの高井と心を通わせるが、西成で生きる人々の業がふたりに悲劇をもたらす(「湿った底に」)。裕福な家に育ち空虚な人生を送っていた青年と夜の街で奔放に踊る女性。互いに惹かれあいながらもすれ違う男女の行方(「落葉の炎」)。「魂の観察者」と称された作家が大阪西成を舞台に描く傑作短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
56
西成山王とはどういう場所なのか、この本から拾ってみました。「すえた臭いの漂う裏町」、「理論や言葉だけではどうにもならない現実」、「独特の酸味と苦みの混じった臭いが漂い、社会で行き場を失った人たちのたまり場」とまあ、形容されています。そんな街に暮らす男と女の悲哀が書かれています。暴力や売春やクスリに依存して生きて行く壮絶な男女の人間模様なのに、どこか切ないお話でもありました。2018/08/15
るい
37
50年前に出されたというその時代をリアルに噛み締めたくて手に取ったけれど…。思っていたのと全く別方向の展開に予想を越える濃さと暗さ。まやかしの日々は虚像でしかなくて現実はただひたすらに暗闇に塗り潰されて絶望へ進んでいく。重かった。2021/04/26
JKD
12
絶望と希望が渦巻く西成地区。壮絶な生活とどす黒い愛憎劇。中にはひっそりと死んでいくものも普通にいる。とても恐ろしい町のようだが、実際に行ってみると人間臭い人たちばかりなので、私はこの地域が嫌いではない。それは好奇心だけの余所者だからなのでしょう。2018/08/28
犬養三千代
9
昭和30年代のドヤ街の雰囲気が立ち昇ってくる。その喧騒、置屋、働く女達。「崖の花」はちょっと異色。異母兄を愛した哀しい物語。 いま、山王にはざこば師匠の「動楽亭」があり、初めて動物前駅降りたときは引いてしまった。が、 過去の山王ではなく今も続いている感じがする。60年経ても、変わらない何がある。 男と女しかいないんだなぁ。 2022/02/01
バボイヨシヤ
8
同じ街で生活する人々が歩んだ各々の日々を描いた短編集。好きだった佐藤泰志『海炭市叙景』をつい思い出したが、こちらのほうがもう少しディープで、人生の悲哀にあふれている。 西成界隈の土地勘があって、出てくる地名の位置関係が頭にさらっと浮かべば、もっと面白く読めるんだろうなと想像する。初めて読んだ作家だけど、同じくちくま文庫から『飛田ホテル』という作品も出ているので読みたい。2020/08/24
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