内容説明
有沢広巳ら一流経済学者を擁する陸軍の頭脳集団「秋丸機関」が、日米の経済抗戦力の巨大な格差を分析した報告書を作成していたにもかかわらず、なぜ対米開戦を防げなかったのか。「正確な情報」が「無謀な意思決定」につながっていく歴史の逆説を、焼却されたはずの秘密報告書から克明に解き明かす。瞠目の開戦秘史。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
116
太平洋戦争の開戦に至るまでの軍事力よりも経済的な観点などから意思決定の経緯を今までにない資料などから分析されていて私には新鮮に感じました。と同時に日本人というのは様々なきめ細かな分析をしているものの、世論の流れにはあらがえない、という気がしました。いまの日韓関係が戦争前の日米の関係を思い浮かべるのは私だけでしょうか?昔の米国のようなことをいま日本は韓国に対して行っているのではないでしょうか?2019/08/29
えちぜんや よーた
86
日米の鉄鋼生産力は1対20。石油生産力は1対数百。真面目すぎる数字だけを出したから、一か八かの戦争に突入した感じ。ガチガチの真面目な数字の中にもハッタリをかませた数字をのせれば、「臥薪嘗胆、戦争回避」の可能性もあったとのこと。当時の考え方は金融庁が出した「老後資産2,000万円問題」に似ていると思う。日本だけを見れば少なくなるパイの奪い合いにしか見えないが、世界経済の成長に目を向けて金融資産や人的資産を投じれば、それほど先行きを心配する必要もないと思うが。戦争も年金も「負ける」ことはわかっていたことだし。2019/06/21
TATA
45
終戦記念日を前に読了。英米と圧倒的な国力の差があったにも拘らず、なぜ日本は開戦に踏み切ったのか。開戦直後は優勢を保つもその後は厳しくなることは予見されていた。しかし、戦端を開かずにジリ貧になることよりも、開戦し早期にうまく講和に導くことを選んだ。「坂の上の雲」で司馬遼太郎も言っていたが、勝ち目のなかった日露戦争を勝利したことが第二次大戦の不幸をもたらしたと。勿論結果論ではあるのだけれど、如何にすれば開戦を回避できたかという考察は興味深く読めた。2019/08/10
樋口佳之
36
前著からの流れで。歴史の本に行動経済学の知見が出てくるとは、かなりビックリ。重々承知でも万一の僥倖に賭けちゃう、人間だもの。エビデンス指向の陥穽に気づくには有効だけれども、そこで止まってはいけないのでは。結果の追認、賭けるリスクと負うべき責任の乖離、人間だものを避けるために打てた手はあるだろうし、それを探さないと。2020/07/10
kawa
33
昭和14年、総力戦となった国家間の戦いを経済面から研究するために陸軍省経理局内に設立された秋丸機関の報告書を題材に、英米と日本の経済力差20対1の状況で、持久戦は耐え難いと予測したにもかかわらず、極めてリスキーな選択をした「?」を明らかにしようと試みる。曰く、①米国石油禁輸の前で立ち枯れるか、②可能性は低いながらドイツがソ連・英国を短期に追い込み、米国の戦意喪失に期待の低確率・他力本願路線か。その2択から非合理的な②の意思決定をなぜ選択したか、行動経済学と当時の政治リーダーシップのスタイルから分析の良書。2025/03/08
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