内容説明
学問と創作を稀有なかたちで一体化させた、折口信夫。
かれの思考とことばには、燃えさかる恋情が隠されていた。大阪の少年時代から、若き教師時代、そして晩年まで、
歓びと悲しみに彩られた人生をたどる、渾身の評伝/物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
34
折口信夫というのはいびつな魂を内包した人で、青年に恋する同性愛者であると同時に、青年に対して自らの経済や時間を惜しみなくつぎ込み育み、導く強い父性の持ち主でもあります。恋と肉欲に苛まれ、苦しめられ、人に笑われてもこの詩人で学者、痩身の知の巨人は知ったことではありません。学問や芸術よりも恋を重く見ています。それは彼が魂をこそ日本人が自己を確認する際のよりどころであり、その魂をぶつけ合い、砕けあい、それでいながら乞うことこそ人が人とつながる意味、つまり恋であり命の味わいだと信じているからに他なりません。2019/08/13
trazom
25
これはいい評伝だ。折口信夫について多くの新発見がある。これまで、信夫は単なる同性愛者(男色)だと思っていたが、両性具有なんだ。だから、信夫の古代研究の中で、男の万葉集と女の源氏物語が見事に共存する。柳田國男との関係も微妙。信夫は、柳田学を自分と同じ実感の学と捉えようとするが、師の國男は「折口君という天才が直感する一回性の論理を、民俗学の本質だと言われるのは困る。事実の背後を読み取る帰納的な文化科学が民俗学だ」と突き放す。恋と知が一体となった折口信夫・釋迢空の「秘恋」が見事に描かれた素晴らしい一冊だと思う。2019/06/22
ちゃっぴー
14
折口信夫の評伝。「花を恋うこころも人を恋うこころも忘れちまった日本ならいっそさっぱり死んじまえ」恋に関しては堂々としていて無垢だった折口。弟子思いでもあり、そこに同性愛の恋愛感情も入り複雑だっただろうな。恋の源は、人が人の魂を恋い求める「魂乞い」。挫折本になった「死者の書」また読んでみたくなった。2019/08/08
wakazukuri
2
正直「折口信夫」をあまり認識していなかった。有名な歌人がたくさん出てきて、凄い人だったんだと改めて認識。短歌に疎く、序盤はなかなか読み進まなかったが、彼の生活や性格、また恋愛感情や師弟愛など、特異性も見えるが、興味深く読めた。2019/03/06
さいとうさと
2
折口信夫が大阪の商家の出、というのが頭の中で繋がってなかったのが、腑に落ちました。登場する古典も彼の著作も、読んでいないものが多くて読書欲をかき立てられます。 たぶの木の前で藤井春洋を「発見」するくだりの美しさ、空襲のなか源氏物語の講義を続け、焼け落ちず残った学舎で戦若者たちを待つ姿に「ええ先生やなあ」と思う反面、圧倒的な力で人の人生を変えてしまう先生にもし我が子を預けるとなったら、親としては複雑だな……とも思わされます。 カバーをめくると自筆原稿の流れるような筆跡を見ることができます。2018/09/27