内容説明
一○年にわたるトロイア戦争の末期,物語は,激情家で心優しいギリシア軍第一の勇将アキレウスと王アガメムノンの,火を吐くような舌戦で始まる.トロイア軍の総大将ヘクトル,アキレウスの親友パトロクロス,その敵討ちに奮戦するアキレウスら,勇者たちの騎士道的な戦いと死を描いた大英雄叙事詩.格調高く明快な新訳.
目次
目 次
凡 例
第十三歌 船陣脇の戦い(八三七行)
第十四歌 ゼウス騙し(五二二行)
第十五歌 船陣からの反撃(七四六行)
第十六歌 パトロクロスの巻(八六七行)
第十七歌 メネラオス奮戦す(七六一行)
第十八歌 武具作りの巻(六一七行)
第十九歌 アキレウス、怒りを収める(四二四行)
第二十歌 神々の戦い(五〇三行)
第二十一歌 河畔の戦い(六一一行)
第二十二歌 ヘクトルの死(五一五行)
第二十三歌 パトロクロスの葬送競技(八九七行)
第二十四歌 ヘクトルの遺体引き取り(八〇四行)
伝ヘロドトス作 ホメロス伝
系 図
地 図
索 引
訳 注
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
154
鎧に身を包み、盾を構え、剣を振り回す筋骨隆々とした英雄たちの闘いが、見えていた。友の死を悼むアキレウス、彼と共にある神馬、一歩も引かず踏みとどまるヘクトル。彼らの進むところ、戦士たちはよけ、道ができた。両軍の勇者が闘うクライマックスの語りが、叙事詩なのだろう。戦争では、時に善戦する日や、急に戦意喪失することがあるに違いない。それを神の手によるものとギリシャの人は考えたのだろうか。そして、闘いにばかり血をたぎらせる男たちを振り向かせるために手や口を出す女たちが、女神なのかもしれない。2017/09/13
のっち♬
147
最愛の戦友の死を聞かされたアキレウスは怒りを収めて戦線に復帰する。いよいよ抑えが効かなくなった神々も臨戦態勢に入って物語は加速。ゼウスのスペックは絶対的であるがヘラの色仕掛けにまんまとハマったりと、人間理性の外側を委ねた彼らもまた時に分別をなくす。ヘラに打たれてゼウスに泣きつくアルテミスも可愛げがあったり。こうした神々の人間味は当時の権力構造が反映されていそう。幕引きのタイミングも味がある。翻訳は詩的効果よりも散文的効果を重視しており、展開や場面の描写が明解。数奇な生涯を過ごした作者の伝記も貴重な読み物。2022/06/23
buchipanda3
104
第13歌~第24歌。剛胆無比の英雄たちが激しくぶつかり合うトロイエの戦場。非情の槍が脳髄を貫く。白い骨を砕き、黒い血が流れる。やがて両眼を闇が覆い、勇猛な魂が離れていく。祈り、叱咤、狂喜、悲嘆。凄まじい喚声、凄まじい奮戦。そんな中、アキレウスの親友パトロクロスが立つ。しかしそれはある皮肉な運命に導かれたものだった。神々は運命が変わることを嫌う。神々の差配による運命が人の生きる道だと言わんばかり。だがそれゆえに悲しみと切なさと喜び、そして情愛に溢れた物語が生まれる。英雄達が跳ね踊る姿にそう言われた気がした。2022/06/13
アナーキー靴下
96
始めは神々の代理戦争かと思ったが勢力争いの様相はなく、より上位の存在が競技の観客として熱狂しているかのようだ。最上位ゼウス筆頭に神々、その下に総大将アガメムノンとヘクトル、更に下が兵士。下位者は上位者の思惑に従わされる、権力そのものの神話である。しかし下位者は異議の申し立てが可能な点や、上位者も出し抜かれぬよう積極的に関わる点、古代ギリシアの社会構造が表れているように思う。人物像や成り行きが凝縮された会話の応酬も巧み。これ程構造を理解する知的文明人に、世相は常に感情に支配されるもの、と見せつけられる皮肉。2021/08/26
藤月はな(灯れ松明の火)
92
戦争の介入を禁じるゼウスの目を欺くため、ヒュプノスに助けを求めたヘラへ「助ける代わりにずっと、恋焦がれていたパシテエをください」と言ってヘラが承諾する場面で本人のいないところで大変なことが起きている。パトロクロスへの復讐だとしても「平和に必要なのは降伏ではないのではないか」と悩みつつもトロイア兵への義を貫き、勇猛に闘ったヘクトルの遺体への陵辱は本編を読んでも惨たらしい。それを踏まえると私は自尊心を穢されたとは言え、多くの兵を見捨てたためにパトロクロスが戦うしかなかった原因を作ったアキレウスが好きになれない2017/10/18