内容説明
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは? 『さよなら妖精』の出来事から十年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生を左右する大事件に遭遇する。/解説=末國善己
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カメ吉
414
文庫化を望んでた作品でした。 さすが面白かった。ネパールの首都カトマンズを舞台に実際に起こった王族殺害事件を太刀洗万智が追いかける。国家レベルの大事件を追う彼女が出会う人たちが凄く興味深く引き込まれる。異国感もこの作品の魅力かも。その国の持つ問題にも切り込んだ『さよなら妖精』にも相通ずるテーマが感じられました。 米澤穂信作品、特にシリーズ物は本当に惹かれる作品が多い。壮大で大人なミステリーでした。 2018/09/13
rico
205
太刀洗万智の原点。フリーになって最初の仕事で訪れたネパールで、国王一家殺害事件発生。彼女もジャーナリストとして取材を進めていくのだが・・・。物語の鍵となる人物は問いかける。真実を知ることに何の意味があるのかと。自分にふりかかることのない惨劇は刺激的な娯楽だと。息詰まるようなシーン。ここにこの物語の全てが凝縮されている気がする。ネット上で様々な事象がすごい勢いで消費される現在であれば、その意味はなおさら重い。 久々に、ページをめくるのももどかしいという感覚を味いつつ、一気読み。面白い!2019/04/19
黒瀬
188
内容については多くの方が触れているので今さら語らずとも良い。私が気になったのは太刀洗としばしば行動を共にする現地の少年、サガルだ。いつかは分からない。しかし太刀洗が再びネパールを訪れた時、サガルは既にこの世を去っているのではという一抹の不安がよぎる。彼は好奇心と復讐心、それから幾ばくかのお金。それだけで踏み入り過ぎる。いつか同じようなことに手を出し、今度は太刀洗のように優しい人を相手にしなかったことで口封じに遭う。そんな未来が容易に想像出来てしまうのは彼に対してあまり良いイメージを持てなかったからだろうか2019/05/11
さばかん
188
面白かった。 面白かったけれども。 それでも。 それでも私は、情報の取捨選択は受け手がするべきであり、発信側がすることで受け手に十分な情報が伝わらないのを良しとすることはできない。なんか言い訳を滔々と述べてたけど、そんなのは発信側の都合でしかないし、傲慢な態度が透けて見える。言いたいことはもっとあるけれども、感想とは異なるのでやめておこう。 世界の大多数を占める小市民は、みな、サガルである。2018/10/21
ALATA
183
仕事をやめ、ネパールに向かった万智は王族殺害事件に絡む政変に巻き込まれる。国王の葬列のように前半のゆったり進むが「IMFORMER」の文字が刻まれるあたりからスピード感が増し、読むのをやめられなくなった。「知は尊く、それを広くしらせることにも気高さは宿る…それが私の仕事だから」元新聞記者としての矜恃が響く。ネパールの内戦が、原風景が、人々を狂わせ物語を深いものにしていて興味深いミステリーに仕上がっている。★4※「おまえの書くものはサーカスの出し物だ」ラジュスワルの言葉が深い。人にものを伝えることは難しい。2023/01/09