内容説明
兵士の日常を描いた芥川賞受賞の戦争文学。
第2次大戦後、戦犯容疑でサイゴン刑務所に抑留された日本兵の鬱屈した日々をユーモア交えて描いた第63回芥川賞受賞作「プレオー8の夜明け」。
他に筆者処女作「墓地で」から、晩年の名品「セミの追憶」(第21回川端康成文学賞作品)まで、戦争の記憶をつむぐ短編16作を収録。
戦後すでに70年を超え、戦下の記憶は風化するにまかされる。30年にわたる筆者の貴重な営みを通じ、名もなき兵士たちは、何を考え死んでゆき、生き残った者たちは何を思うのか――今改めてその意味を問いかける、珠玉の“戦争文学短編集”。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hitsuji023
5
戦場での目を背けたくなるような行為が描写されているが、同じ日本人として忘れてはいけないことだと思う。なぜ遠い異国でそんなことをしなければいけなかったのか。戦争の無意味さ。個人の弱さを思った。こういう戦争私小説を読むと人は性善説ではなく、性悪説で見なければいけないんじゃないかと思わせられる。人の特に男の暴力性や欲望は戦争によって、人種問わず剥き出しになるからだ。結局戦争はしないのが一番。弱い立場の一市民としてはこんなことに巻き込まれないように平和が続くように願うばかり。2022/08/29
みや
3
第63回芥川賞受賞の表題作始め16作の戦争短編集。全体主義に鼓舞される日本人を恥じ、殺さぬようにわざと弾を外す、著者のような兵隊も確かにいたのだろう。「ガルガンチュワ物語」を愛読し、状況中の人になりきれない著者だからこそ、人々が役割を必死に演じ、そのために死んでゆく戦争の滑稽さをユーモアと自嘲を交えて捉えられたのだろう。その一方で、晩年まで繰り返し戦争の思い出をなぞり、戦友との繋がりを確かめているようなところからは、戦争に翻弄された男の姿が垣間見られる。2019/06/09