内容説明
昭和日本を支えた鉄都に火の如く渦巻く人間模様──
煙が炎々と天を焦がす製鉄の町・北九州八幡。複雑な家庭事情のなかで、祖父母や親戚たちの見守りを受け、焼跡に土筆のように逞しく育ったヒナ子は中学生に。やがて映画と本に夢中になり、脚本家を夢見て上京をもくろむが……。愛欲の煩悩やみがたく制裁で街を追われた仕立て屋の叔父、炭坑で地獄をみてきた堅固な人生観をもつ祖母ら、名もなき人たちが煩悶しながら戦後の激動を火のように生きる、前作『八幡炎炎記』に続く著者初の本格自伝的小説・完結編!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
82
『八幡炎炎記』に続く完結編。これまで物語の核となっていた克美がフェイドアウトし、代わって著者の分身ともいうべき中3のヒナ子に移っていく。その少女が八幡の有楽館、小倉の昭和館で八幡製鐵所を背景につくられた木下惠介監督の『この天の虹』、山本薩夫監督の『熱風』の映画を観て、シナリオライターになりたいという思いが立ち上がってくる。著者の思い出も重ねているのだろうか。小説自体は大河小説の趣を見せるものの、その後のヒナ子の物語はなく、あっけなく終わる。→2025/03/09
なゆ
70
あのヒナ子がどう成長しただろうかと。そういえばヒナ子も緑もタマエも、戦後はなんとフクザツな家庭で育つ子の多かったことか。素直で元気なヒナ子も、中学生になると口数少なくもの憂げになるのだな。好きなこと見つけたら新聞配達して自分で稼ぐし、その勢いできっと飛び出して行ってしまうのだろう。周りの大人だちもなんだかんだと忙しなく面白く、当時の暮らしぶりが興味深い。ヒナ子みたいな娘、初期の短編でよく読んだかも。きっとみんな、村田さんの分身だ。みんな貧しくて街は雑多で、それでもエネルギーに満ち満ちてた八幡を懐かしもう。2019/06/06
信兵衛
34
3組の夫婦と、妙な繋がりでその娘として暮らす3人の女の子を主な登場人物として描き出した人間模様、家族模様というストーリィ。 そういう時代、そういう家族の有り様が事実としてあった、本作についてはその一言に尽きる、と思います。2018/06/20
kawa
31
村田さんの作品は、表現できない不思議な魅力があり、結果として数多くの作を楽しませてもらっている。こちらは、著者の自伝的小説の下巻・完結編。戦後から昭和30年代前半あたりまでの家族や八幡の人々を描く。さほど劇的な展開があるわけではないのだが、その時代の雰囲気や登場人物に妙なリアル感があるのが魅力。2018/07/25
そうたそ
26
★★★☆☆ 著者の自伝的小説である「八幡炎炎記」の二作目にして完結編。本当に続編出るのかとずっと疑っていたのだが、こんなにあっさり完結編まで出てしまうとは。正直、前作の内容もあまり覚えてはいないのだが。前作もこれほどまでに家族の物語的なテイストだったっけ?と思いつつ読了。2018/07/05




