内容説明
腐食せず、摩耗にも強く、慎重に扱えば10万年は機能するだろうと言われていた「キログラム原器」。しかし、製作から約130年がたったいま、じつはその原器の重さがゆらいでいることがわかってきました。重さの基準が変わってしまえば、1グラムあたりいくらという約束によって成り立っている取引も安心して行えません。絶対に変わらず、誰にとっても納得できる「重さ」の基準とはなにか? 最先端の科学がその難題に挑みます。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
215
かつては王の腕が、長さの単位だった時代がある。単位は権力者と結びついて、また地域や物によって大いにばらつきがあった。転機はフランス革命。より平等な単位を。政治の市民革命は、単位の革命でもあったわけだ。距離と重さを精密に測り、定義を正確に現示した原器が生まれた。でも、まだ十分ではない。どんなに厳重に保管しても、原器には誤差が生じ、失われる恐れはつねにつきまとう。より普遍的で、未来永劫に亘って狂わない基準を。辿りついたのは物理定数。何桁もさきまで精密に測って、定数を決定する。それが新たな単位の定義となる。⇒2019/05/31
まーくん
89
国際単位系の基本となる単位は長さ、質量、時間、電流、熱力学温度、物質量(モル)、光度の7つ 。長さは白金イリジウム合金でメートル原器が作られたが、種々問題や限界があり、現在は光の速さをクリプトン86の波長に基づいたメートルで測定し、光速を秒速2億9979万2458mと決定。以後はこの光速を基準に1mを定義。しかし「質量」は、「長さ」のように基礎物理定数で定義することが出来ず、依然、白金イリジウム合金の国際キログラム原器が質量標準となっていた。が、基礎物理定数を基準として定義できる技術条件が整ってきた。⇒2023/04/21
まえぞう
17
再読しました。単位の理論的な定義は、普遍性を求めるがゆえに、科学的な知見が増すにしたがい人間の感覚から離れていく。一方で、その定義にしたがって如何に実際に測るかも新たな技術と根気が必要となる。単位に取り組む科学者の苦労がよくわかるお話しでした。2021/01/23
loanmeadime
16
北極から赤道までの子午線の1000万分の1を1mと定め、その基準がパリに保管されるメートル原器だったのを、光の波長に今は置き換わっていると、高校生のころに聞きました。当時愛用の「親切な物理」の割と終りの方に出てくるので、名前だけ覚えとくか、という認識だったのがプランク定数ですが、大学入試本番にその応用が出題されて青くなった記憶があります。以来50年、そのプランク定数が今日ではキログラム原器に代わるという話で、ボーっと生きている間の世の中の移り変わりに驚いています。2025/11/19
bapaksejahtera
16
2018年の国際度量衡総会第26回総会で7つの基礎物理定数のうちkg、アンペアA、ケルビンK、モルの4つの定義が根本的に改定され、国際キログラム原器は廃止と決定。国際単位系に大きな変更がなされた。本書はこれを機に、計量単位体系について一般への周知を図らんとして計量研究機関の所長が著した物。冒頭単位の起源からメートル法や計量標準器の歴史を述べた後、量子物理学の進展に計測技術の急速な発展が追いついた、単位を巡る新たな状況を説明する。中々難解。新たな定義の改善余地等、斯分野の残された課題も明らかにする良著である2023/01/28




