内容説明
「趣味は人間に大切なものである。楽器を壊すものは社会から音楽を奪う点において罪人である」(『野分』より) ロンドン留学中に西洋音楽と出会った夏目漱石は、盟友寺田寅彦の手ほどきもあって、以後大のクラシックファンとなる。お洒落をしてコンサートに行くのがなによりの楽しみで、娘に当時としては高額のピアノを買い与え、中島六郎という専属教師をつけ、彼の音楽評を森田草平にまとめさせ、新聞の文芸欄に掲載させていた。日本最初のバイオリニスト・幸田延や、日本に初めてオーケストラを作ったアウグスト・ユンケル等、当時の一流音楽人たちの公演も観ていた。音楽への傾倒は作品にも大きな影響を与えている。『三四郎』における美禰子の造形を筆頭に、有名な『野分』の音楽会の場面、随筆『ケーベル先生』など漱石文学の名作は、クラシックを抜きにして語れないものだった。文明社会に芸術は欠かせないと考えていた漱石にとって、クラシックとは『草枕』で語られる理想の境地「非人情」を具現化するものだった。音楽学の第一人者による画期的な漱石論が登場!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どら猫さとっち
7
夏目漱石はクラシック音楽愛好家だった。というのは当時の音楽事情からすれば、ロックもジャズも普遍的じゃなかった時代、ある意味で当然と言える。とはいえ、彼の音楽好きは、並みならぬものだった。音楽から汲み取った想い、愛娘がヴァイオリンを習ったのも、そこにある。芸術に造詣が深い漱石の音楽愛を、浮き彫りにした文豪評伝と言えるだろう。2025/03/12
横丁の隠居
2
明治期に西洋音楽を取り入れようと四苦八苦する様子がよくわかる。最初は演奏会と言っても和洋混在で演奏もおぼつかない感じだが、明治44年にはまがりなりにも「カヴァレリア・ルスティカーナ」をやっているのだから、日本人の好奇心・探究心・努力あなどるべからず。西洋音楽にそれだけの魅力があった証左でもあろう。資料としては詳細で貴重だと思うが、読み物としては煩瑣に過ぎて読みにくい。漱石の娘のピアノ教師、中島六郎がコテンパンにやられているが、中島(長耳生)の批評文を代筆させられた森田草平こそいい面の皮である。気の毒なり。2018/11/14
伊達者
1
読む直前に本書と連動したコンサートが開催されたことを知り,大変悔しい思いをした。漱石を読むとクラシックが結構出てくるのは前から感じていたが,単なるハイカラ好みではないことが良く分る。思いがけない視点の本であった。漱石が留学先のイギリスでうめいた時代は,ワーグナーは亡くなり,ブラームス,ブルックナーが死んだ直後でマーラーがバリバリのころだっのだ。2018/07/30
ひろし
0
緻密な考証から明治の有名人人脈がつながり、いきいきした時代が見えてくる。ピアノを購入した漱石家のほのぼのとした団らんが印象的。2024/03/24
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