内容説明
戦中、戦後に亘り書き継がれた名作「日本婦道記」。直木賞辞退作としても知られる金字塔、その31篇を網羅した完全版、初の文庫化。武家の体面を保つために自らはつましい生活を送くる女。その死によって初めて明らかになるその生活を描いた『松の花』や『髪かざり』『風鈴』などの連作短編集。山本周五郎の作品の根幹を成すテーマである、「慎ましく生き、苦しみ、働く」という姿勢を貫く、傑作小説集。
感想・レビュー
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tengen
30
山本周五郎の直木賞辞退作。 周五郎自らが選んだという11編より抜き版の「小説 日本婦道記」は読んでいましたが、こちらは31編すべてを網羅した完全版。 「小説 日本婦道記」には、「松の花」「梅咲きぬ」「節竹」「不断草」「藪の陰」「糸車」「尾花川」「桃の井戸」「墨丸」「萱笠」「風鈴」の11編が収められている 下巻。 ☆彡 糸車/菊の系図/尾花川/桃の井戸/壱岐ノ島/竹槍/蜜柑畑/おもかげ/二粒の飴/花の位置/墨丸/二十三年/萱笠/風鈴/小指2022/01/11
山内正
4
祝言の前日飴玉二つ出し私の父が切腹し重松の家が追放となり江戸まで 途中母は微笑を消さなかった 長屋暮らしを始め 武士の子として 生きるのですよと どんなに嬉しかったか 国から彦六が鎧櫃を届けにきた 亀之助が成人する迄辛抱するのです 私が十歳の時母が枕元で飴玉二つ 二人の喜ぶ顔を見たかったのですと 残した鎧櫃の中から十両の金が 慎ましく生きたと周りの評判になり 中屋敷がその日に 召返しの沙汰があり家禄が戻る あなたは女だからやがて母様の 気持ち分かっておくれだと!2020/08/31
山内正
4
篠山きぬは唇を震わせ 竹槍の稽古に参加しないのをなじった 母に仕立ての仕事を家ですると言う 主君の気に召さず勘当で切腹した父 大津に越してまだ浅い 師匠から仕立ての仕事が続いた 竹槍の稽古はもう無くなったと聞く 五月英国船が沖合に 兵士十二人 浜人に捕まる 貞子様ときぬが掛け込んで逃げましょうと 私何も知らなくて堪忍してと 一尺退くと一尺英国のものになります 私も同じ気持ちです 私の父は勘当の身世を慎む家なのです 竹槍でなくて覚悟なのですね 捕らえられた兵士を乗せて海から去って行った英国船2020/08/24
山内正
4
お婆様のあった事を書留めて置こう と 子も夫も寝た九ツに 父親の国元に帰る事に 長橋家お婆様に訪れる様になる あなたは嫁に行かないのですか 歌を詠むのと結婚を別に考えては いけませんと 二年目に後添いの話を受けた 二人の男の子がいる 夫が参勤で江戸に立った 夜半泣く長男に亡くなった母が 本当の母です決して忘れては成りません欣之助は驚いた顔をした 三年目に出来た康三郎に無意識に衣を掛けようと お婆様は我が子継子に親身も他人も あるもので無く 三人の子を育てる喜びが幸せだと 2020/08/10
山内正
3
杉屋様の後に寂しげな女と子供が 会釈だけして旅姿で船着場へ 杉屋の縁談は向こうから断ってきた と兄が謝る 両親の無い二人で育ち助け合った 道場仲間の杉屋が来る様になり 縁談も決めたが 山の五反田を頂きたいと兄に言い出す 家を建て増したとか蜜柑蔵を建てた とか知らせるが山から降りて来ない 兄は二人子が出来た 一人の婦人が信乃を尋ねた 時山と名乗る 伝三郎の兄嫁ですと 息子辰之助の跡目届けが叶い 信乃様の事知らずに八年も 近い内伝三郎殿を連れて参りますと 2020/08/22