内容説明
毎年違う流行に身をつつんだり、評判のレストランに忙しく足を運んだり、時代の空気を自分の暮らしに取り入れてみたり──そんなこととは無縁に、不変の価値観のもと、動じることなく、かつしなやかに生きた吉田健一。近代化や戦争によって自らの愛した世界がなくなってしまっても、あきらめることなく、「ほんとう」の人間の営みが再び湧き起こってくるのを東京の片隅で見守っていた。そんな著者がおでん屋のあり方、大人のふるまい方から、理想の文学に至るまで、静かに、時に饒舌につぶやいた百篇。とっておきの一本を開けたくなる珠玉のエッセイ集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃっぴー
13
昭和32年3月から6月にかけて熊本日々新聞に連載された随筆100編。文明批評的なものからおでん屋の話まで、話の巾が広い。サクサクっというよりじっくり読める随筆でした。これらがほとんど毎日連載されてたなんて、なんとも贅沢な新聞に思えます。2014/11/14
三柴ゆよし
11
買ったばかりの本書を百貨店に置き忘れたことがあるので、今回は大切に読んだ。話題の振り幅は異常なまでに大きい。「人間であることに就て」語っていたかと思えば、いつの間にか「おでん屋」にまつわる蘊蓄を披露しているからおどろく。吉田健一においては、人間の本質もおでん屋の昔も地平を同じくする問題であり、その闊達自在な話しぶりは、まさしく飲み屋でたまたま隣に座った親父のおしゃべりそのものなのだが、そこには、一度耳を傾けた者の心をつかんで離さない底の深さと、冷静な批評眼がそなわっている。飲みながら読みたい一冊。2012/05/18
うた
10
吉田健一らしからぬ長さがきちっと揃った短評だなと調子よく眺めていって、実は新聞連載で2度とやりたくないという後書きを読んで苦笑いしてしまった。確かにこんな忙しい仕事は好みではないだろう笑。しかし一貫しているのは、柔らかいようで一本筋の入った考え方。例えば、自分で選んで責任を取ることが自由である、堅苦しい文化人や趣味人であることよりもそのことが好きであることが大事であるなど、読んでいてなんとも居心地の良いバーに入ったような気分である。私が時折ヨシケンを読み返したくなる理由がわかった気がする。2023/01/15
コホン
1
昭和32年の日本の状態がどうであったかがうかがえる。2.26の当時の一般の人たちの受け取り方とかちょっと意外で興味深い。2013/10/27
tomomi_a
1
市井に生きて、生活を愛おしむこと。それを続けることの尊さ。尊いことをするりと続ける図太さ、強かさ。2013/08/25