内容説明
19世紀、日本をはじめ世界中に圧倒的影響を及ぼしたスペンサーは、20世紀に入ると、社会的ダーウィニズムを唱えた弱肉強食の冷酷な思想家として激しい批判にさらされ、忘却された。しかし、そうした理解は正当だろうか? 否。自由の意味を根源から問うたその議論は、いまこそ再評価されるべきである。本書では、彼の思想の核心を伝える論考を精選して収録。そこからは国家の強制による福祉ではなく、個人の自発的な意志に基づく協力の原理を探究し、社会的弱者への慈悲を説いた姿が浮かび上がる。国家を無視する権利まで容認する、その徹底した自由の理論を詳らかにする。文庫オリジナル編訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
37
1843,51,84年初出(008頁)。救貧法が供給する基金は共同体の富裕層から困窮層を支援するための寄与だ、と普通みなされている。だがこれは正しい見方ではない(021-2頁)。戦争は政治的にも商業的にも悪であるだけでなく、道徳的に悪だ。戦争はキリスト教の精神と調和しない(042頁)。戦争は大きな悪である(047頁)。 国家教育は社会の進歩に不可欠の多様性と独創性を破壊する傾向がある(093頁)。正義(justice)と善行(beneficence)は区別しなければならないが(ともにゴシ太)、両者は 2018/02/02
加納恭史
18
ベルクソンの「笑い」から彼の著作の「創造進化」など難しさを知った。彼の土台はスペンサーであることを知ったので、この本を読むことにした。ハーバート・スペンサー(1820~1903)はリベラリズム及リバタリアニズムの源流をなす政治哲学者。社会学、倫理学、教育学にまでおよぶ幅広い分野で著述を行い、ジョン・スチュアート・ミルと並び、英国ヴィクトリア時代を代表する思想家として今なお世界に絶大な影響力をもつ。主な著作に「社会静学」、「心理学原理」、「生物学原理」・・。有名なものに進化論があり、ベルクソンに影響した。2023/10/07
Ex libris 毒餃子
11
どっちかというと政治学的な論調の文章が多かった。当時の時代背景に合わせてスペンサーの考え方を述べているが、そんなに違和感はない。訳者がいうように直接、スペンサーの著作に触れて誤解を解いた方がいいかもしれない。そう考えるとこの著作はかなり有意義です。2025/01/22
Mealla0v0
5
今日、スペンサーは社会進化論を唱え、「優勝劣敗」「適者生存」という帝国主義的な世界観を生み出した悪の親玉と目されており、いまさら誰も読もうとしない、と訳者は言う。そして――だが、このような誤解に抗するためにも、スペンサーの思考のエッセンスのつまったテクストを新たに訳したのだと。実際スペンサーの語る社会進化とは、軍事的圧制に基づく社会から産業の発展した自由社会への移行を指している。そして、道徳共感論に基づき、弱者に手を差し伸べ、国家の支配に抗する思想を練り上げた。……新たなスペンサー像を知れてよかったかな。2021/01/08
馬咲
4
スペンサーが志向した社会は国家から最大限自由な諸個人の互恵的協力関係による社会で、福祉制度の否定は積極的な利他心の自生を阻害するからとのこと。「福祉制度は病理の根治ではなく緩和に過ぎない」という指摘には共感を覚えるし、社会進化論者のレッテルに隠された問題意識を持っていたことも分かった。それでも本書を読む限り「適者=互恵的協力関係を結べる人々」を主体にした「平等な自由の第一原理」は、今日の諸問題と親和的であると感じる。そもそも単なる国家からの自由の追求ではスムーズに個人の自由へと帰結せず、「自由な諸個人の2022/09/24